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第49話 俺は美波さんの昔話を聞いた

「私の育った家はね。貧乏だったわ。父親がまともに働かなくてね」

「それは貧乏になるな」

「母親も身体が弱くてすぐ寝込んでしまうの」

「それは大変だな」


俺の場合は父親がいないが、母親はちゃんとしていたからな。

その点はマシだったか。


「それでもね。私のために必要なお金は母親がなんとかしてくれていたわ。小学校の給食代とかね」

「そうか」

「でも、父親がそれを見つけては酒代にしてしまって。よくケンカしていたわ」


お話に良く出てくるパターンだな。

実際の体験談としては初めて聞くが。


「このお金だけはダメよ」

「いいから寄越せ」


そんな会話があってケンカになるパターンだな。

それを襖に隠れて聞いている子供。


「だから、私は貧乏な男とは付き合わないと決めたの」

「また、ずいぶんと単純な考えだな」

「そうよ。小学校の頃から裕福な人たちと付き合うにはどうしたらいいか考えていたの」


うーん。玉の輿願望が強いんだな。

すると本来の俺は対象外ってことだな。


「だから、裕福な人たちがどんな行動をするのか。どんなものを身に着けて、どんなものを好むのか。それを徹底的に調べたわ」

「そうか」

「その結果、今の私がいるのよ。どんなお金持ちと一緒にいても、みすぼらしくみられることはないわ」

「そうだな」


美波さんの今は、努力のたまものということか。

物腰とかマナーとかを見ていると、裕福な育ちに見えるからな。


「だけど、大変なのよ。自分の稼ぎだけで、みすぼらしくみられないための生活をキープするのは」

「それはそうだな」


俺はみすぼらしく見えるのを気にしない生き方を選んできたからな。


「あいつはダメだ」と言われても気にしない。


自分の基準で最低レベルの生活をする。

それに必要な仕事をする。


そんな生き方だった。チート財布を拾うまでは。


「だけど、今になって思うのよ。道を誤ったかなと」

「そうなのか」

「だって、贅沢を追い求めても幸せが待っているとは思えなくなっているの」

「それはあるな」


今の俺は幸せなのか?

最低限の生活を気楽にやっていた頃よりも幸せなのか?


そんなことを時々考えているな。

答えはまだ出ていないけどな。


「でしょ。もっと普通の人と結婚して普通の生活でよかったかもって」

「そうかもな」


彼女は俺よりふたつ下で、27歳だと言っていた。

きっと、同い年でもう結婚していて、子供がいる友達もいるのだろう。


「だからね」

「なんだ?」

「愛人にしてくれない?」

「なんで、そうなるんだ?」


普通の結婚の話じゃないのか。

愛人とかではなく。


「だって。お金持ちと結婚するのがいいことなのか、分からなくなっているのよ」

「だったら、サラリーマンと結婚しろよ」

「いやよ。贅沢できないもん」

「やっぱり、そうなるのか」


まぁ、その気持ち、分かるけどな。

俺も今、チート財布を失ったら、前の生活に戻れるのか。


よくわからない。


贅沢がどんなものか、体感する前なら自分とは違う世界だとあきらめることもできた。

しかし、贅沢が当たり前の生活をしてしまった後は、それがない生活はイメージできない。


「もちろん、ただ愛人になりたい訳じゃないのよ。いっぱいいるわ。愛人にならないかって言った男は」

「そうだろうな。美波さんみたいな女、愛人にできたら最高だからな」

「だったら愛人にしてよ」

「ただの一般論だ。俺は愛人を持つほど甲斐性がある訳じゃない」

「何言ってんのよ。悠斗さんになかったら、誰にあるというのよ」


確かにな。

金だけ見たら、その通りだ。


しかし、脱童貞したばかりの俺には、愛人という存在は理解できないな。

荷が重すぎる。


「まぁ、そう言うと思った。悠斗さんは変に堅いとこあるから。ここもだけど」


あっ。いきなり、そういうとこ触るんじゃない。

また、反応してしまうだろう。


「今回のリゾートの旅はね。悠斗さんに愛人がいる生活を体験してもらいたいなって思ったの。きっと快適だからね」

「うーむ。お試しということか」

「いいのよ。試食してみても」

「おいおい」


なんか貞操の危機を感じてきた。

貞操逆転の世界なのか、ここは。


貞操逆転化、来たぁー。


というより、それも現金魔法の効果でしょう。


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