第44話 俺は「アイドルになろう」と名付けた
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「相談ってなんでしょうか?」
俺より10くらい年上だろうか。
小太りで背が低い男。
彼はみゆちゃん達のトライアイドルの非公式ファンクラブの会長だと言う。
名前は誠人。
ユーチューブにアップされた動画ですぐにファンになり、試食公演の度に最前列で観ている男。
最初見たとき、アイドルの親衛隊ぽいな、と思ったら本当にそうなってしまった男だ。
当然、トライアイドルが最初ではなく、ずっとアイドルの追っかけをしまくっているらしい。
「アイドルに詳しいと聞いたから、相談しているのだ」
「もちろんです。アイドル、それもメジャーになる前のアイドルが中心で相当知っていますよ」
「そういうアイドルに楽曲を提供したいのだが」
「は? 作曲をしているんですか?」
話が伝わらないようなので、トライアイドルの楽曲提供者の話をした。
「えっ、あの『恋の試食販売』を作った人ですか」
「そうだ。他のアイドルにも楽曲提供したいと言っている」
「あー、それは無理ですね」
どうしてだ。
誠人の顔が曇っている。
「なぜだ?」
「メジャー化していないアイドルはお金ないですから。アイドル本人もほとんど無給みたいなものですよ」
そうはそうだろう。
みゆちゃんもキャバクラでバイトしているし。
「そこは心配ない。基金を作る。その基金から資金は出るからな」
「えっ。そんなことが可能なんですか」
よし、のってきた。
誠人は一気にテンションが上がってきたぞ。
「あの楽曲を作った人ですか。いくらでも、楽曲提供してもらいたいアイドルいますよ」
「アイドルを紹介してもらえないか」
「もちろんです」
うん。これで、ソングライターの彼の仕事はなんとかなりそうだ。
「それと、アイドルコスチュームも提供するぞ」
「あ、もしかして。それもトライアイドルの衣装を作った人ですか」
「その通り」
アイドルが人気がでないのは、楽曲や衣装という基本の部分が弱いからだ。
当然、そこを底上げすれば、人気が出るアイドルも出てくるだろう。
もちろん、アイドル達の潜在能力にもよるがな。
「基金というのは、アイドルを育成する基金だと思っていいですか?」
「あー、そういうことだ」
そこまで深くは考えていなかった。
楽曲の提供をするために、必要な基金として考えただけだ。
衣装の話は、ついでに出てきたこと。
考えていた訳ではない。
「あ、それじゃ。もしかして、ライブ会場を借りたりするのも基金が使えたりしますか?」
「うむ。アイドル育成基金だからな。育成に必要なものなら出る」
どんなことが必要なのか。
俺はよくわからないが、誠人ならよくわかりそうだ。
「でも、どうやって基金を出すかどうかを決めているんですか?」
「今は、トライアイドルだけだから、決めるも何もないんだ」
「あ、基金はこれから本格的に始まるってことですか」
「その通りだ」
どのくらいのアイドルが参加するかはまだ分からない。
しかし、基金に10億円でもいれておけば、当分は大丈夫だろう。
「しかし、基金が始まったばかりだと、どのアイドルが利用できるかあいまいですね」
「それなら、アイドルファンが決める形にすればいい」
「それって、どういうことですか?」
「ほら、『人気作家になろう』というサイトがあるだろう。あれのアイドル版をつくればいい」
「あ、アイドルファンの投票によって決まるとか?」
「それはAKD方式だろう。作家になろう形式だ。つまり、動画の視聴回数がベースだ」
「それ、いい!」
みゆちゃん達の動画の視聴回数がとんでもないことになっている。
人気が出るアイドルは当然、そういう力がある。
動画サービスサイトを利用して、アイドル動画をアップできる仕組みを作る。
そこから先は・・・よくわからないな。
「と、言っても、サイトの作り方は知らないがな」
「大丈夫です。私のアイドル仲間にすごい奴がいますよ。プログラマなんです」
「じゃあ、そいつに任せよう。資金は基金が出すからな」
「はい、早速聞いてみますね。あ、ちなみに、そのサイト、なんて名前になるんでしょうか」
名前か……そうだな。
あれしかないな。
「名前は決まっている。『アイドルになろう』だ」
こうして、のちに芸能界を震撼させることになる。
『アイドルになろう』、略称、『アイなろ』がスタートしたのだった。
『アイドルになろう』の制作が始まりました。




