第30話 俺に電話をかけてきたのは彼女だった
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ありがとうございます。
アイドル育成編に突入したけど、キャバクラでの話が続きます。
「もしもし?」
「はい?」
「先ほど、うちに来てくれた方、ですよね」
「おお。そうだ」
「ちょっと会ってお話がしたいんです」
「えっと。今、板橋だけど」
「今、会うことは可能でしょうか」
時間を見ると、午後8時半。
あの家を出てから、4時間も経っていたのか。
「今はキャバクラにいる。それでもいいか?」
「はい。かまいません」
「では、埼京線の板橋駅。改札はひとつなので、そこの前で待っている。何分後くらいになるかな?」
「30分で行きます」
さっき8千800万円置いてきた彼女だ。
なんだ、話って。
「お仕事の電話?」
「いや。困りごとの人。うまく助けられなかったんだけどな」
しばらく、みゆちゃんにアイドル活動の話を聞いた。
痛い話が多いなぁ。
だけど、それでもアイドル活動は楽しいらしい。
なんとか、アイドルらしくなるように手助けしないとな。
「あ、そろそろ、駅に着くな。ちょっと迎えに行ってくるぞ」
「はーい」
☆ ☆ ☆
「それで話というのは?」
板橋駅で会えて、キャバクラに戻ってきた。
ミキちゃんの代わりに俺の前に座らせた。
ミキちゃんは別の席に行ったが、なぜかみゆちゃんは、俺の隣にいる。
お昼に会ったときは、ボロボロな恰好だったけど、今はしっかりとしたおしゃれな服装になっている。
メイクもばっちりだ。
こうやってみると、綺麗な人だ。巨乳じゃないけど、
「ええ。その前に自己紹介させてください」
「おう」
「私、沢田愛花っていいます」
「よろしくな」
「あの後、ずっと考えていました」
「おう」
「そして、とんでもなく失礼なことをしてしまったと気づいたんです」
いきなり土下座しそうな勢いだな。
「いや。気にしないでいいぞ。単なる通りがかりだしな」
「そうはいきません。とんでもない親切をしてくれた人に失礼な態度なんて」
うーん。
俺は気にしていないが、本人が気にしているのか。
ここで、「気にするな」と言っても無理だな。
「分かった。謝罪を受け入れよう。失礼な態度を反省したということだな」
「はい」
「失礼な態度を謝罪した。俺は納得した。これで終わりだな」
これで話は終わりだな。
ここは乾杯でいいか。
ドンペリかな。
「あと考えたんです」
まだ続きがあるのか。
どうなるんだ?
「まず、お金はお返しします」
「そうなのか」
「はい。ただ、借金分だけお貸し願いたいと」
「もちろん、いいぞ」
「必ずお返しします」
「そうか」
返さなくていいと言うと、なんだか面倒なことを言いそうだ。
すべてイエスで受けておこう。
「もうひとつ、お願いがあります」
「なんだ?」
「仕事を紹介して欲しいんです」
「仕事?」
「分かってしまったんです。私の問題が」
「聞かせてくれるかな」
「はい。要は簡単なことでした」
「どんな?」
「お金は使えばなくなるって」
「・・・」
参った。
これはイエスで返しづらいな。
あの財布のせいで。
「そして、無くなったうえでさらに使えば借金になるって」
「そんなの当たり前じゃないの」
さすがに黙っていられなくなって、みゆちゃんが口をはさんできた。
そうだよな、それが普通の反応だよな。
「はい。私がバカでそんな簡単なことが分からなかったです」
「そうか」
「要は仕事をしてお金を稼いで、そのお金より少ない金額を使う。それだけで問題は解決するって」
「そうか」
「ただ、そのためには、出費を抑えなきゃいけない。まず、家賃。今のとこは払い続けられる家賃じゃない」
「そうか」
「食費だって通信費だって交遊費だって。抑えなければいけない」
「そうか」
「そうして、やっと生活が成立するんだって」
「そうか」
なんだ、自分で答えを出してしまったのか。
俺が助けるまでもなかったな。
「ただ、すでに作ってしまった闇金の借金だけはなんとかしないと」
「闇金!」
みゆちゃんが闇金に反応した。
街金は怖いって知っているみたいだ。
「そこだけは、お願いして助けてもらおうと」
「いいぞ。元々、人助けのつもりだったからな」
「ほかのお金はいりません。自分で稼いだ分で生活をします。さらに少しずつですが返済します」
「そうか」
「本当にありがとうございました」
「もしかして。俺はお前を助けることができたのか」
「もちろんです。命の恩人です。あのままだったら、自殺するしかなかったんです」
あ、目に涙がたまっている。
本当に感謝してくれているんだな。
「泣いてもいいんだぞ」
「ごめんなさい。泣かないって決めてたのに」
「そんなことは決めなくていい。泣きたいときは泣くのが自然だ」
「えーん」
なんか、子供みたいな泣き方だな。
あれ、なんで、みゆちゃんも涙流しているんだ?
「分かる。お金ないのって苦しいの。がんばってもダメで」
「ありがとう。そう言ってくれて」
「私も同じ。お金が足りなくてどうにもならなくて、たまたま声を掛けられたこの店で働くことにしたの」
「そうなのね」
「そしたら、この人がいて」
「あ、素晴らしい人と出会ったのね」
「そう。今はこの仕事も楽しくて」
なんと。
みゆちゃんと仲良くなっているぞ。
まぁ、仲良いのはいいことだ。
「いいわね、ここ。板橋ってとこも」
「うん。都会よね」
「え? 都会?」
そこは一致しないのか。
埼玉在住と都心在住の違いだな。
「私もここで働こうかしら」
「愛花さん、それいい!」
「私にできるかな」
「私でも、できるんだから、絶対大丈夫」
「でも、面接とかあるんでしょう?」
「ちょっと待って」
みゆちゃんが黒服さんを呼ぶ。
「はい?」
「この人がうちで働きたいって」
「もちろん。歓迎です」
「紹介者は、悠斗さん」
俺か。たしかにそうなるな。
「それでは決定です。うちは寮もあるけど、どうしますか?」
「寮! 入りたいです」
「では、詳しい話をしましょう」
黒服さんは愛花さんを連れて行ってしまった。
「でも、大丈夫かな」
「何が?」
「黒服さん。勝手に決めたら怒られるんじゃない?」
「えっ、彼は店長よ」
「えっ」
知らなかった。
ただの従業員だと思ってた。
店長だったのか。
道理でいい感じの対応をしてくれるはずだ。
黒服さんは、俺の中で黒服店長に進化したな。
「決まりました」
「はやっ」
「新人の愛花さんです」
「よろしく、愛花です」
「そうか」
「こちらに座らせていただいていいですか?」
黒服店長は元いた席に座らせた。
「おう、いいぞ」
座ったのはいいけど、何をしたらいいかわからない様子。
「ほら、お酒を作るのよ」
みゆちゃん、楽しそうにキャバ嬢のお仕事を教え始めた。
慣れないながらも、楽しそうだ。
「これで仕事も住むとこも決まったな」
「はい。おかげさまで」
「俺は君を助けることができたのか?」
「はい。新しい生き方を教えていただきました」
あ、また涙溜めているな。
「泣いてもいいんだぞ」
「はい。なんか、嬉しくって」
今日、ふたり。
人助けができたな。
次はみゆちゃんだな。
こっちはお金だけではうまくいかないから難しそうだ。
中国ではなくキャバクラ行きでした。




