番外『マグロス』編14話 俺は伝説のプロデューサーに会った
「こんにちは」
うーん、普通の気が弱そうなおっさんだな。
この人が本当に時代を征した伝説のプロデューサー、小諸竜哉なのか?
「それでは、小諸さん。年収1千万円の立場を使って、やりたいことを聞かせてください」
渋川社長は、いつも、こう聞くな。
まぁ、俺も小諸さんなら興味あるから聞いてみたいことだけどな。
「歌を作りたいんです。新しい歌を」
「失礼ですが、小諸さんならご自分でその環境を整えられるんじゃないですか?」
おっと、バーリングの渡瀬会長、いきなり厳しいことを言うな。
「えっと。今の私では、無理です。本気で新しい歌を作りたいと思っているので」
「今年の頭に、アイドルへ楽曲提供していたじゃないですか」
「与えられた環境ではなく、もっと自由に歌を作りたいんです。そのためには、今、超躍進している悠人カンパニーの力が必要なんです」
ずいぶんと、悠人カンパニーを買ってくれているようだ。
よし、あれをぶつけてみるか。
「オーナーの悠人だ。ひとつ、いいかな。小諸さん」
「はい、なんでしょう」
「まずは、これを聞いてもらいたい」
昨日一日で完成させた、一輝プロデュースのみゆちゃん高音曲。
一輝は相変わらず仕事が早くスタジオを借りて、みゆちゃんのデモ音源を完成させてくれた。
スマホから流しているから、それほどいい音じゃない。
それでも澄んだ高音のみゆちゃんの声が響き渡る。
「えっ。どういうことですか? なぜ、彼女の高音をこんな歌にするんだ!」
「誰だか、分かるんだね」
「もちろんです、悠人さん。奥さんのみゆさんの声でしょう。正直に話しますね。私がこれに応募したのは、彼女の声が欲しかったからです」
なんと、小諸さんはみゆちゃんの高音に気づいていたということか。
まぁ、マグロスで披露しているレベルの高音でも気づいてしまったということだな。
「まぁ、そういうことだから、あきらめてくれ」
「ふざけるな! なんだこのデモ音源は! こんなありきたりな曲で彼女の潜在能力は発揮できやしないぞ」
「ほう、言いますね、小諸さん。25年前のアニメ『マグロス』にサウンドトラックを提供していた頃なら別ですが。今のあなたに、これ以上の音が作れるというんですか?」
そうだった。アニメのマグロスにも小諸竜哉のサウンドトラックがあったな。
バトルシーンに使われていて、爽快感があったな。
「25年前の私ですか? 当時の私では、無理だ。今の私だからこそ、できる音がある」
おー、バーリング会長に言い切るんかい。
自信満々だな、小諸竜哉。
25年の時を経て、どんな音をイメージしているのか。
また、分からないが……バーリング会長にぶつかっていく小諸竜哉を見て俺は決めていた。
やはり、あたらしいみゆちゃんの歌を作るのは、こいつだな、と。
「よし、分かった! 悠人カンパニーの最高責任者として小諸竜哉を年収1千万円社員として迎えよう。最初の仕事はみゆの新曲だ」
「ありがとうございます」
「渡瀬会長、協力のほどお願いできるかな?」
「もちろんです。今、話題のみゆさんと悠人さんの依頼なら、喜んで受けますよ」
まだ、小諸竜哉には協力するとは言わないんだな。
まぁ、小諸が落ちぶれた時には渡瀬会長にも被害はあったかもしれないしな。
「よし。明日、顔合わせをするぞ。小諸くん、参加できるか?」
「もちろんです。ただし」
「ただし?」
「もうひとり、呼んでもらいたい人がいます」
「誰だ?」
「ダンサーの平方優奈さんです」
おいおい、また、めんどくさいのを指名してくるな。
平方優奈と言ったら、人気アイドルグループの完璧センターと呼ばれながら、そこを抜けてソロダンサーに転身したばかりの女じゃないか。
13歳でデビューして今、17歳だったはすだ。
すでに人気ミュージシャンとのコラボをいくつもこなし、さらに映画主演がいくつもオファーが殺到していると言う。
生まれながらの天才ダンサーの呼び声が高い。
「私の作る音には、みゆさんの歌と平方の舞いが必須です」
どういう歌を作るんだよ、小諸竜哉。
だいたい、癒し系のみゆちゃんと尖りまくった平方優奈とでは、テイストが違いすぎないか?
「ふたりのぶつかりあいで時代を超える歌が完成するんです」
まぁー、この件は渡瀬会長に頼むしかないな。
どうなんだろう……おー、いけるのか? 確かバーリング傘下ではないはずだが。
「よし、当たってみよう。では、平方優奈さんの参加を条件にこの話は進めるとしよう」
「えっ、いいんですか?」
「最高の歌にするためには、必要なんだろう? 小諸竜哉の妥協した歌なんか、もう聞きたくはないからな」
「はい!」
おいおい、そんな少年みたいなキラキラした瞳をするなよ、小諸竜哉。
もう50代だろう……だが、そんな小諸竜哉も悪くないな。
面白くなってきた!
あー、名前が似ている実在の方々とは別のキャラですから、そこんとこ、よろしくです。
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