第19話 俺はベッドルームに美女とふたりでドキドキした
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「もっと、あちこち見せてもらっていいかしら」
「もちろんだ。ここに連れてきたのは美咲さんで2人目だからな」
まずは巨大なリビングだな。
「ここは、パノラマな窓が一番の特徴だぞ」
「すごいわね。本当に東京が下に見えるわ」
「あと、これもいいだろう?」
リモコンスイッチをポチッと押した。
壁が開いて、中から巨大な液晶テレビが現れる。
85インチのスクリーンを縦横2台づつ、計4台ならべて、170インチ相当になっている。
「これで映画を見ると、プライベートシアターになるぞ」
「いいわね。今度、悠斗さんと一緒にラブロマンスでもみたいわ」
「残念だな。俺はアニメが専門だ」
「あらま」
美咲さんが笑っている。
ふたりの趣味は合いそうもないな。
「ここでなら、50人くらいの立食パーティができる設計になっているそうだ」
「ええ。リビングルームというより、パーティルームよね」
リビングの隣はダイニングだ。
リビングとダイニングの間に敷居はないが床の色が違っている。
「リビングに比べると控えめね。それでも大きいわ」
「10人くらいまでなら、ここで食事ができるな」
そのさらに奥はアイランド型のキッチンだ。
パーティ料理をすることが前提になっている。
「俺はここでカップラーメンを作ろうと思ってな」
「それは…冒涜ね」
女の聖域というか。
素晴らしいキッチンをカップラーメンのために使うのは許せないようだ。
美咲さんが睨んでいる。
あ、ぞくぞくする。
美人に睨まれると俺の中の知らない何かが反応するらしい。
「まぁ、LDKはこんな感じだな」
「ええ。もう、私が住んでいるワンルームマンションの何倍なのか。そういうつまらないことは考えるのはよしたわ」
「とにかく無駄に広いな」
「パーティをする以外だと本当に無駄に広いわね」
今度は豪華な内扉を開いて隣のセクションに移動する。
「そして、ここが風呂だ。ジャグジーもついている。この浴室の窓はフルオープンできるから露天風呂モードに変形するぞ」
「最上階だからこそできる贅沢なのね」
お湯は入っていない浴槽の中で美咲さんが言う。
そんなジャグジーに入っているのを想像した顔をしたらダメだ。
俺も裸になった美咲さんを想像してしまうだろ。
「あとは、トイレが男用と女用」
「ふたつあるのね。1LDKなのに」
「いや。もうひとつあるぞ。ベッドルームのは別にある。ベッドルーム用の風呂もな」
この部屋はLDKとベッドルームを別々にすることができる。
まるで二世帯住宅みたいになっていて、ベッドルームにはトイレと風呂が別に用意されている。
「個室がひとつなのに風呂が2つでトイレが3つ。本当に常識を無視した部屋ね」
「ああ。風呂無しの部屋にいたことが嘘のようだ」
風呂から玄関に向かって廊下を歩く。
そこにある扉を開いて入る。
「そして、ここがウォークインクローゼットだ」
「これはいいわ。一番私が欲しい部屋だわ」
「俺には猫に小判な部屋だな」
「本当に」
今は、美咲コーディネイトの3セットの服だけが収納されている。
元々もっていた服は段ボールで隅に置いてある。
「でも、なんかね。私のワンルームと同じくらいの広さって、なんか複雑よ」
「それ言うなら、俺が住んでいたアパートはもっと狭いぞ」
完全ロックができる境目を超えて、ベッドルームエリアへ。
付属のトイレと風呂はファミリーマンションくらいのサイズだ。
「そして、ベッドルーム」
「あら、もうベッドがあるのね」
「これだけは、残してもらった。今日、寝るのに必要だからな」
「キングサイズね。ホテルのスイートのベッドと同サイズだわ」
「そうなのか。でかいとは思ったが」
「ね。ちょっと寝転がってもいい?」
「もちろん、いいぞ」
美咲さんがベッドに横たわる。
ちょっとエロいな、これ。
ベッドルームに美女とふたり。
俺が覆いかぶさったら、どうするのつもりだろうか。
「広いわね」
「広いな」
「ひとりで寝るの?」
「そうなるな」
美咲さんの横に腰掛ける。
美咲さんが俺を見上げてくる。
「本当のこと言っていい?」
「ああ」
「本当は、もう悠斗さんにはコーディネイトの依頼以外では会わないつもりだったわ」
「そうか。もしかして、嫌われたか」
「逆ね。怖かったの」
「怖い?」
俺はそんなやばいオーラを出していたのか?
そんなつもりはなかったんだが。
「最初は、ファッションに全く無知なあなたを見て余裕だったの」
「そうだろうな」
「だけど、伊勢丹でいろいろと買い物をしたわね」
「そうだな」
「不思議に楽しくなっていたの」
「そうか」
「仕事は好きよ。楽しくやっているわ」
「そうか」
「だけど。仕事の楽しさと違う楽しさを感じてしまったの」
「どういう…」
「料理屋に行ったとき、失敗したな、と」
「そうなのか?」
「なんだか、デートみたいって。思ってしまったから」
「ああ。デートの練習だったからな」
ベッドに横たわる美咲さんは、何を言おうとしているのだ?
よくわからないな。
「楽しく食事して。すごいワインも出て」
「ああ。うまかったな」
「この人はどういう人だろう、と考えてしまったの」
「まぁ、そう思うだろう。普通はな」
俺自身がよくわかっていないからな。今の状況が。
美咲さんが分からないのも理解できるぞ。
「悠斗さん心の底が見えない。それから私、不安になったの」
俺の底か。
とてつもなく高い上げ底だろうな。
一番の底にはきっと、あれがあるんだろう。
チート財布が。
「どうみてもお金があるように思えないのに、現金がガンガン出てくるし」
「まぁ、そうだな」
「私の警報が鳴ったの。悠斗さんは危険だって」
まぁ、危険な金の使い方。
それは分かるぞ。
「だから、私はあなたに近づくのを禁止したの。私自身でね」
「それが、美波さんを派遣した理由か」
「そう。彼女なら、私よりキャパが大きいと思っていたから」
「そうなのか?」
昨日のこのマンションでの彼女を見ているからな。
キャパが大きいとは思えないぞ。
「私も、いろいろな人のコーディネイトをしてきたわ。だから、ある程度自信があるの」
「そうか」
「人を見る目のね」
「ああ」
「悠斗さん。全く底が見えない男。本当に危険だわ」
「そんなことはないぞ」
だけど。
また会ってしまったんだな、俺と。
俺とふたりきりでベッドルームにいる。
それって危険じゃないのか。
「そんな危険な悠斗さんとふたりでベッドルームにいる」
「そこだ」
ちょうど今、「どうなのか」と思っていたから、声に出してしまった。
「もう警報が鳴らなくなってしまったの」
「そうなのか」
「美波と一緒かも。私も壊れているのかも」
よくわからない。
何が、美波さんを壊してしまったのか。
何が、美咲さんを壊しているのか。
考えていた。そして、気付いてしまった。
チート財布。
きっと、あれだ。
ふたりの女性の何かを壊した正体。
そして、たぶん、俺の何かも壊しているだろう。
いくら贅沢を経験してみようと思ったとしても。
ラーメンの全部のせができなかった俺。
きっと、壊れてしまったのだろう。
だから、この部屋を即金で買うなんて、ありえない行動をしてしまった。
「それは、俺も一緒かもな」
「どういうこと?」
「俺も壊れてしまったのかも、ってことだ」
それからは、もう美咲さんは、何も話さなくなった。
しばらく、ただそこにいるだけになった。
そして、30分ほどして。
「帰るわ」と一言残して、美咲さんは帰っていった。
えっ、その状況で美咲さんと何も起きないのは?




