番外『マグロス』編3話 覚悟を決めて前に進むんだ!
「分かりました。私達は人類の側に立ちましょう。どんなに奴隷にしか見えなくても、それが人類が選んだ結果です」
「奴隷っていうな! 卑弥呼からずっと続いている日本人の生き方だ。良く知りもしないで!」
「ええ、理解できません。だけど、それはそれでいい気がします」
あの時の海底宇宙人の決断はすごかったな。
分からないけど、決める。
「なんとなく」
ただ、それだけ。
俺も、今回の決断は「なんとなく」でいくとしよう。
☆ ☆ ☆
「美咲さん、決めたよ。S&Sは売ろう」
「えっ、いいの? 悠人さんの想いをみんなで作り上げたシステムじゃないの?」
「だからだよ。俺たちが夢見た世界をゴーグルに実現してもらおうじゃないか」
すでに社員が1200人を悠人カンパニー一番の稼ぎ頭。
正式リリースから半年で、世界会員が2千万人を越えて月売上が5億円を越えたシステム。
それがS&Sだ。
S&Sは、センス&スキルの略で、登録会員の持つスキルとセンスを見える化するためのもの。
元々は、『アイドルになろう』のサブシステムで、アイドルサポートをする人達のマッチングサイトだった。
動画撮影、動画編集、ネットプロモート、作詞作曲、コスチュームデザイン製作等々。
アイドルを生み出すのに必要なスペシャリストをプロダクション形式ではなく、アイドルに紹介する。
会社という組織を使わず、アイドルをやりたい人と、アイドルをサポートしたい人を直接つなぐ。
やりたい、という気持ちを形にするために作られたシステムだ。
まさに、俺が求めたシステムで、悠人カンパニーの理念を形にしたものだ。
その後、DIY女子アイドルのハナちゃんが参加したことで、アイドルに無関係な世界まで広がっていく。
DIY技術者、大工の匠、施工管理者、図面設計、トータルデザイン。
それまでは工務店やリフォーム店がやっていたことをサイトに登録した人達が有機的つながりで実現していく。
日本全国に散らばる空き家に新しい価値を生み出し、シャッター通りだった商店街に活気を注入する。
それを実現するのも、個人のスキルとセンスにフォーカスしたS&Sだった。
もっとも、俺が関わったのは、その構想とスタート時点だけだが。
そこから、他業界に広げたのも、世界対応したのも、悠人カンパニーの連中だ。
俺が事故って寝ている間に、驚くほどでかくなっていた。
フェイスノートが顔写真と本名で繋がっていくSNSなら、S&Sは個人が持っている能力で繋がっていくSNSだ。
やりたいと思っていても、環境が整わなくて埋もれてしまっている能力を最大限広げて発揮できる場を作る。
そのために必要な情報と評価と実現モデルをシェアしていく。
そんな大それた構想を、まだまだ小さいながら実現しているのがS&Sだ。
「S&Sが悠人さんの下じゃなくなるのね。私はどうしようかしら」
「美咲さんは、もちろん俺の下で働いてもらう。しかし、俺の枠だけで考えるな。S&Sなら世界だって美咲さんのセンスのステージになるさ」
S&Sが始まった最初のきっかけは、俺と美咲さんの出会いかもしれないな。
ファッションに自信がなかった俺が、美咲さんのコーディネイトを受けた。
そこから、新しい世界が広がっていった。
独立する前の美咲さんのように、センスを埋もれさせてしまっている人はたくさんいる。
やりたい気持ちを持ちながら、人が作った道を歩いている、海底宇宙人が言うところの奴隷。
そういう人達に、自らの道を示すこと。
それがS&Sに込めた俺の想いだ。
「だからこそ、S&Sはゴーグルに任せようと思う」
「そうね。悠人さんがやりたいことは無限にあるものね。S&Sにこだわることはないと思うわ」
「ああ。世界最大のネット企業、ゴーグルならきっと、S&Sを世界の隅々まで広げてくれるだろう。無限ともいえる資金と技術で」
もちろん、金の問題がないとはいわない。
S&Sに対する買収資金が10億ドル。
細かい数字はこれから交渉になるが、すでに提示されている額でも、そこまで出ている。
「だけど、よく決断したわね。一番決断の根拠になったのは何かしら? お金? それとも可能性?」
「あー、よく聞いてくれた。いいか、根拠を言うぞ」
「何かしら?」
「な・ん・と・な・く、だ!」
「ええっ~、どういう意味?」
オリンピックのお・も・て・な・し、のように言ってみた。
な・ん・と・な・く。
これがコロナ関連を押さえて、今年の流行語大賞になるとは、この時は全く気付いていなかった。
チート財布がなくなった後、どうやってお金をゲットしているのか。
そこ、気になるかなと思って、早々に答えを出しておいてみた。
ゴーグルに買収されたS&Sは、ゴーグルさえも凌駕するシステムに発展していくんだけど、それは悠人から手が離れた後の話。
悠人はどこへ向かうのか?
やっぱり海底宇宙人の海底都市なのか。
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