第18話 俺は新しい部屋で演技をした
ブクマ4353件になりました。順調に伸びています。ありがとうです。
トルルルルーーゥ♪
昨日、ドンペリ飲みすぎて、朝、起きれないでいると。
美咲さんから電話が入った。
「ごめんなさい」
電話に出るといきなり謝られた。
「美波が迷惑かけてしまって」
なんだっけ?
美波さんが迷惑?
「あんなことをするひとじゃないのよ普通」
「あ、タワーマンションでの行動だ」
そうだったな。帰りたくないってごねたんだ。
「ええ。絡んだみたいで」
「いや。ちょっと演技過剰だと思ったが」
「あまりに理想的なマンションだったから、パートナーの演技していたら夢に酔ってしまったみたいなの」
やっぱり、そうだろう。
あれが演技だったら、美波さん、すごすぎるぜ。
「彼女、どんな役でもこなす人なの。こんなの初めてで」
「あー。別に気にしていないから。あれはあれで面白かったからな」
「だから、今日は私が同行するわ」
「えっ? それって、どういう?」
「彼女、恥ずかしくて顔が合わせられないって」
「気にしないでいいんだが」
急遽、パートナーが変更になった。
美咲さんと一緒にマンションの引き渡しを受けることになった。
「あれ? 今日は別の人なんですね」
「えっ、なんのことかな?」
デキル不動産屋さんが、突っ込みを入れてくる。
面白いから、とぼけてみたぞ。
「えっ、えっ? あ……こちらが奥様ですか。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
あ、あたふたしている。
面白いな。
美咲さんと話して、美咲さんが奥さん役ということが正式に決まった。
美波さんは、ちょっと困った恋人役で。
「うちの主人が、なんか無理を言ったみたいで」
「いや、そんなことはないですよ」
さすが、デキル不動産屋だな。
しっかりと、立ち直したぞ。
「それでは、行きましょう」
「「はい」」
今日は鍵を受け取る。それだけだ。
書類はまだ出来上がっていないから、仮引き渡しになる。
その間はレンタル扱いだ。
めんどうくさいことは、すべてデキル不動産屋と前回来た不動産のプロにお任せだ。
「いい眺めね」
「そうだろう。お前も一緒に住めばいいのに」
「その話はやめましょう。もう十分、話したわよね」
うまいな、訳あり夫婦の演技。
堂々と、こなすな。
「素晴らしい眺めですよね、奥様」
「まぁ、私がここに来ることはもうないでしょうが」
「あ、はい」
面白いな、デキル不動産屋。
ふたりの状況をいろいろと想像しているの、よくわかるぞ。
「じゃあ。最初で最後だから。ここでお茶でも飲みましょうか」
「あ、では、私が用意しましょう。いちおう簡単なものは用意がありまして」
「大丈夫よ。私がもってきているから」
そう言うと、ドンと500mlのペットボトルを3本、どんとサイドテーブルに置く。
なんか、意味ありげな行動だな。
「そうだな。君も一緒にお茶を飲もう」
「あ、はい」
目で逃がさないぞ、とデキル不動産屋に合図を送る。
わかりました、と観念したような表情になる。
本当に面白いな、こいつ。
「昔は楽しかったわね。あなた。まだ、あなたがGUしか着ていなかったころ」
それって、今週の頭のことだな。
しかし、設定では何年前のことなのだろう。
「そうだな。とにかく金がなくて。何も買ってやれなかったな」
「それでも幸せだったわ。あなたが私だけを愛してくれていたから」
のるなー、美咲さんも。
ここのLDKでは女性がドラマの主人公になってしまう効果があると思う。
「いろいろあったからな。しかし、今でも愛しているよ、美咲」
「あなたはいつも、口だけね」
そう、返すのか。
うーん、次の一手が思いつかないぞ。
ここは、デキル不動産屋に投げてみよう。
「そんなことはないよな、君?」
「えっ、えっ」
いきなり話を振られて、頭がぐるんぐるんになってる。
面白いな、やっぱり。
「ご主人には、本当によくしてもらっています。おかげで私の会社での立場もよくなっていまして」
あ、それ本当ぽいな。
5億8千万の物件が売れたのは、よかったんだな、デキル不動産屋。
「うちの主人はね。外面がすごくいい人なの」
ふふふ。そらきた。がんばれ、デキル不動産屋!
「これだけ行動が早い方ははじめてですよ。仕事がうまくいっているのもよくわかります」
「行動はなんでも早いわね、昔から。女に手を出すのもね」
「えっと、お茶菓子など、どうでしょう。買ってきますよ」
「お茶菓子ならあるわ」
どん、と、かっぱえびせんの袋を出す美咲さん。
なんで、そんなの持っているの?
「あ、そうですか。かっばえびせん、おいしいですよね」
あ、時間稼ぎのコメントだな。
面白いから、続きどうするのか見ていよう。
「えっと、お茶とかっぱえびせん、すごく合いますよね」
そろそろ、かっぱえびせんから離れたらどうだ?
「えっと。しかし、こんなに美しい奥様がいるなんてうらやましいですね」
「美人は3日で飽きるって言いますからね」
うわ、すげーな、美咲さん。
とことん、追い詰めるな。
「飽きるなんて、そんな。私だったら。。。すいません。私は関係ないですね」
ぐちゃぐちゃになっているぞ。デキル不動産屋。
男女問題は、できる部分じゃないのか。
「あなた。ちゃんと、話し合いましょう」
「なにをだ?」
「これからのふたりのことよ」
「ふたりのことか」
「そう。そろそろ決めないと。憎みあう。それだけは避けたいわ」
「分かったよ。今日はとことん話し合おう。ふたりでな」
あ、デキル不動産屋、ほっとしているな。
まぁ、これくらいで勘弁してやろうか。
「すまないが」
「あ、お邪魔ですよね。帰ります。手続き関係は電話します。今日はありがとうございました」
一気に言ったな。
なんか、言われる前に退散したいってのがバレバレだね。
「わかった。後はよろしく頼む」
「それでは失礼します」
デキル不動産屋は、そそくさと出て行った。
「ふっ。面白かったー」
「ぐふふふ。あいつわかりやすいな」
「本当ね」
「しかし、美咲さんも演技派だな」
「なんか、本当に相手されていない妻になった気がしてきてね」
「まだ会って3日目だとは思えない発言だな」
「本当にそう」
ふたりで爆笑した。
美波さんが、美咲さんと交代した。名前は似ているけど、見た目は違います。




