第183話 俺はお金のことを考えはじめた
「俺のやり残したことか」
もし、去年死んでいたら、特になかった気がする。
恋人もいないし、家族もいない。
大した仕事もしていない。
俺がいなくなっても困ることがなさそうだった。
しかし、今は違うな。
「みゆちゃんとの約束を破ってしまった」
そう。
一緒にアニメを観るという約束。
大した約束ではないが、妙に心残りだ。
他の人たちとは最後のひと時を過ごしているしな。
「もしかしたら、俺は分かっていたのかもな」
猫は自分の死期を悟って、飼い主の前から消えるらしい。
人間にもその能力があるのかもしれない。
この1週間は俺が死んだあと後悔を残さないように行動していたな。
人と会うのも、ビジネスのやり残しを片づけるのも。
俺がいなくなったら、チート財布は使えなくなる。
それでも問題にならないように、できるだけの手を打つ。
それを自然とやっていた。
お金のことは、もうやり残したことがない。
チート財布のおかげで、やりたいことを思いっきりやった。
やりたいことを制限している一番大きなものはお金だな。
お金のために、やりたくないことをやって、やりたいことを我慢する。
それが普通の人間の人生だ。
俺のチート財布に出会う前もそんな感じだった。
いや、俺はやりたくないことをできるだけやらないで済む人生を選んでいた。
就職はしない。
恋人も家族も友達も持たない。
それをしないだけで、やりたくないことを相当カットできる。
当然、お金はあまりないから、お金が掛かることはあきらめた。
お金のかからないことのうちで、やりたいことだけをしてきた。
それはそれで、有りって人生だったな。
お金というのは、結局、やりたくないことをやったことの報酬ということだな。
そう考えた瞬間。
目の前の銀色の光の流れが輝きが弱くなった。
「ん。違う、というのか?」
では、お金ってなんだ。
お金があれば欲しい物が買える。
サービスも受けることもできる。
お金というのは、価値を交換する媒体だろう。
銀色な光がまた輝きだした。
「これは間違っていないということだな」
俺はお金ってなんだろうと、
考え続けていた。
お金って、あなたのとって、どんなものですか?
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