第181話 わたしは信じられないものをみてしまった
「絶対、今日のアニメは見逃すなよ、美波」
悠斗さんが珍しく、そんなことを電話で言ってきた。
だから、深夜の1時半に始まる『アイドル大革命』を観るつもりでテレビをつけた。
「うーん。やっぱり悠斗さんのとことは違うわね」
あそこだと、普通のテレビが映画館のようになる。
今日は悠斗さんは誰と観るのかな。
やっぱり、みゆちゃんとか。
「まぁ、詮索するのは無しね」
プロの愛人の美波としては、悠斗さんが誰と付き合おうと文句は言うつもりはない。
ちゃんとお手当くれないなら、文句のひとつも言うんだが、お金に関してはそういうことはまずないし。
「そろそろ始まるわね」
CMが終わりオープニングが始まった頃。
誰かに呼ばれた気がした。
「ん? 気のせいよね」
深夜の一人住まいの私の部屋で誰に呼ばれたとなると、とんでもない事件に発展するか、おかしな物が憑いているかだ。
どっちも無さそうだから安心して、アニメに集中する。
「うわ、煌さんの人気すごいわ」
リアルな人気とアニメで描いている煌さんの人気。
どっちもすごいことになっている。
だけど、アニメで観るといっそうリアルに感じられるから不思議だ。
そして、ジュエリープリンセスとしてデビューした他の3人との関係。
表面上は仲良くしている。
しかし、あちこちでぎこちなくなっている。
「本当にそうなのかしら」
アニメだから、大げさに表現しているのかも。
そう信じたい自分がいる。
「だけど、大丈夫。だって悠斗さんがいるんだもん」
ミラクル悠斗にかかったら、なんでも解決してしまう。
これまたリアルでもアニメでもそうだ。
「でも、だからこそ、リアリティーがないのよね」
普通のアニメでは、なんでもできてしまうチートを持っているキャラはあまり出てこない。
出てきたとしても、何かとんでもない欠点があるものだ。
なろうアニメを観たことがない美波としては、子供の頃見たアニメと比べている。
「やっぱりストーリーとしては、悠斗さんが関われなくなる何かが起きるのが鉄板よね」
そんな独り言を言ったら、アニメの展開がその通りになった。
悠斗さんがダンプに轢かれたのだ。
「あーあ。やっぱりそうなっちゃうのね。だけど、悠斗さんがいると盛り上がらないからって、ちょっとひどくない?」
そんな文句をテレビに向かって話していたら、テレビから緊急速報のチャイムがなった。
「ミラクル悠斗で有名な、日下悠斗さん(29才)が20分前に自宅近くでトラックに轢かれて病院に緊急搬送されました」
ええっー、これってどっきり?
そういうの、仕掛けるってどうよ。
だから、悠斗さん、これ観るように言ったのね。
美波はそんなに簡単に騙されたりしませんから。
エンディングも終わって、画面が切り替わった。
「これら報道局です。緊急で入ってきたニュースです。ミラクル悠斗で有名な、日下悠斗さん(29才)が交通事故にあって、病院に運ばれました。意識不明の重体ということです」
ちょっとやりすぎよ。さすがにここまでやられたら、心配になっちゃうじゃない。
NHKにチャンネルを変えた。
だけど、NHKも同じニュースをしている。
他のテレビ局も同じ。
「まさか、本当に?」
スマホで確認したら、ネットニュースが全部悠斗さんのニュースを流していた。
「まさか。そんな!」
ここまで確認して実際に事故が起きたことを美波も認識した。
令和元年12月13日の金曜日。
深夜1時のことだった。
巨星墜つ。。。
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