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第174話 俺は奨学金の怖さを知った

「ほらほら。こんなにかわいい子供さんのために、お母さん、がんばってくれないと」

「がんばるって、どうしようもないじゃないの」

「そりゃ、借りたお金は返さないと駄目だろう。奨学金なんていうのは借金じゃないがな」

「無理よ。そんな金利が高くちゃ。いくら働いても足りないわ」

「そんなことはないんだよ。今の金利はたった1日8万円じゃないの。ちゃんと給料のいいとこ紹介するって言っているじゃない」

「1日8万円! 聞かなくても分かるわ。そんな仕事したくない」

「じゃあ、仕方ないな。このかわいい双子の息子と娘でいいか。今、中国人のお金持ちが子供を欲しがっているんだ。お前さんの写真をつければ将来美人にイケメンになるって、喜んで金を出すぞ」

「人身売買なんて今の日本で出来る訳ないでしょう」

「お姉ちゃんは知らないだけさ。ちゃんと法律的にできる方法はあるんだよ。この親権放棄の書類にサインすれば、あとは何も心配なくなるよ。子供達は中国人のお金持ちの御屋敷でお金の苦労を知らずに成長できるさ」

「やめてください。この子達は私の宝なの」

「そうだろう。だったら、1日10万円以上稼げる仕事をしようよ」


そろそろいいかな。


「あのう」

「えっ?」

「何か。困っているようだな」

「あなたは?」

「ただの通りすがりの者だぞ」

「えっと。えっと」

「はぁ~。おいおい邪魔するんじゃないぞ。邪魔すると痛い目をみるぞ」

「助けてください。誰だか知らないけど、助けてください」

「分かった。助けよう」

「「ええっ!?」」


俺はちゃんと双方から事情を聞いた。

困っているのは、闇金から借金が800万円あるってことらしい。


「借りたのはたった150万円よ。なんでそんなになるの?」

「お姉ちゃんな。利子っていうものがあってな。10日に1回、1割払っていれば増えないんだよ」

「えっと、そういうことはいいから。今の話だけ聞かせてくれ」


やっぱり800万円らしい。


「借金はそれだけか?」

「えっと、あと、クレジットが100万円くらいあって。他に奨学金が600万円あります」

「おいおい。そんなのは知らないぞ。俺は800万円もらえば素直に帰るからな。最低でも金利の80万円はもらわないとな。増える一方になるぞ」

「無理です。そんなお金ありません」

「あるぞ」


俺は1千万円の束を2つ、ナップザックから取り出した。

財布が進化してから困ったことがひとつ。

基本1千万円の束になってしまうこと。


百万円づつ分けるのがめんどくさくて使いづらい。


「とりあえず、一千万円をこっちのヤクザのおっさんに」

「ヤクザじゃないぞ。正真正銘の闇金屋だ」


ヤクザと闇金の違いはよくわからないが、そういうことにしておこう。


「こっちの一千万円はお嬢さんに。あ、お母さんか」


まだ24歳だからな。

普通ならお嬢さんだ。


「あー、闇金屋さんはおつり2百万円を寄越してくれ」

「私はどうしたらいいんでしょう」

「あー。その1千万円は奨学金とクレジットの借金を返すための金だ」

「たぶん、3百万円ほど余るんですが」

「まぁー、あれだ。とっといてくれ。そうしないとまた借金するだろう」

「あ、ありがとうございます」


深々と頭を下げてくれた。

うん。

なかなか、礼儀正しいな。


「それはすみませんね。それでは私もこの1千万円を」

「闇金屋はちゃんと8百万円を数えてのこりを返すように」

「ええー、差別だ」

「俺はな。女性にはやさしいんだ」

「おっさんに愛はないのかー」

「ないな」


闇金おっさん、乗っているな。

最近は突っ込みを入れるようになったのか。


必死になってお札を数えている闇金屋。


その間、俺はお嬢さんに話を聞いていた。


「ちゃんとしたとこで働いて返すつもりだったの奨学金」

「そこまでして、大学にいかないといけないものなの?」

「だって、大学いかないとその後、負け組人生が待っているのよ。うちの親みたいに」


両親とも高卒であまり給料がいい仕事ができていないらしい。


「あー。あれだ。学歴だけではないぞ。俺は大金持ちだが、中卒だぞ」

「嘘っ!」


そして気づいたようだ。


「あ、ミラクル悠斗さん! まさか」

「そのまさかだ」


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