第167話 私は奴を陥れるための罠を用意した
「いいな。この案件」
「でしょう。いかにも可能性がある感じが良いでしょう」
「しかし、こんな会社。買えるだけの金があるのか?」
「本人が魔法の財布持ちだと言うんだから、大丈夫なんじゃないですか?」
私は真治。
今は悠斗カンパニーの社員だ。
もっとも、最近は会社のスタッフが急激に増えてきたことで、私の居場所は少なくなってきている。
「このままじゃ、どうなるか分からないな」
中学の同級生というだけで、悠斗に拾われた身だがアイドルと不倫しているのが社内でバレて肩身が狭い状況になってしまった。
おまけに妻にまで、ひどいことを言われて、今は別居中だ。
もっとも、別居になったときは宮古島に単身赴任していたから実感はなかったが、東京に戻ってきたときマンションに誰もいなくて別居しているってことを実感した。
「悠斗の奴はなんでもうまく行っているのにな。世の中は不公平にできているらしい」
そんなときに、再生コンサルタントの間島と名乗る男と知り合いになった。
再生コンサルタントというのは、倒産しそうな会社を立て直すプロだと言っている。
もっとも、少し酒をおごって実際のところを聞いてみると、なかなか面白い話が聞けた。
「まぁ、立て直しなんてほとんどうまくいかないのが実情よ。だから、倒産する会社からいかに金を引き出すのか。それが仕事だな」
倒産しそうな会社に寄ってくるハイエナだと自分のことを言っていた。
だから、間島はうちのオーナー、悠斗に興味を持ったそうだ。
「潰れ掛けのゲーム会社を買収してすぐ立て直したと聞いているぞ」
「なぁに。ただの偶然だ。私の部下のプログラマーが優秀なだけだ」
本当はプログラマは開発部隊で私のセクションではないんだが、ついカッコつけしてしまった。
「それなら、悠斗オーナーと話ができる関係ではないのか?」
「ああ。もちろんだ」
「それなら、一儲けしたいと思わないか?」
間島がもってきたのは、潰れ掛けの会社の話だ。
今、普及しはじめている電気自動車に使われる電池を開発している会社だ。
画期的な技術を持っているとは言われているが、開発につまづいて資金繰りが苦しくなっているという。
「このままだと、画期的な技術が中国の会社に持っていかれると噂されている会社だ」
「ほう。その会社、再生コンサルタントととして、関係しているのか?」
「ああ。もう、つなぎはできている。あとは、出資をする相手を紹介すれば、出資の5%の礼金が入る」
この話、悠斗は乗ってくるんじゃないか。
しかし、渋川社長を経由すると、話が前に進まない気がするな。
ここは、誠人からアプローチさせて直接、あっちの社長に合わせるか。
「もし、悠斗オーナーが出資したら、礼金は山分けでどうだ?」
「出資の規模はどのくらいになるのか?」
「最低50億円だ。ほんとうに助けようと思えば100億円を超えるかもしれない」
すごいな。
100億円の礼金は5億円。
その半分としても、2億5千万円か。
それだけあれば、人生やり直すことができるな。
「よし、うまく話を持っていくから、乗ってきたらあちらの社長とのセッティングは頼んだぞ」
「おお。任せておけ」




