第161話 俺は自分が投資した物件を忘れていた
「悠斗さん。やっとできました」
「えっと。誰だっけ」
悠斗カンパニーのオーナー室に入ってきた男を見て、なんか見たことがあるって思った。
だけど、誰だっかは思い出せない。
「あ、忘れてしまわれたんですか。残念です」
「あー、ごめん。あんまり顔覚えるの得意じゃないのでな」
特に男の顔は覚えるのが苦手だ。
かわいいアイドルなら40人以上のグループでもちゃんと全部覚えるぞ。
「ほら数カ月前に投資してもらったんです。クーラー繊維の開発で」
「あー、あれか。発展途上国で役立つという」
「そうです。そうです。やっと完成しました」
できたんだ。
しかし、もう冬になるぞ。
あ、だから、マフラーなんだ。
彼はマフラーのようなものを1枚持っている。
きっとそれがクーラー繊維で出来ているんだな。
「これがそのクーラー繊維で作ったマフラーです」
「ちょっと使ってみていいか」
「どうぞどうぞ」
早速、首に巻いてみた。
あ、ひやっとするな。
マフラーだけど、冬には使えないな。
「普通の冷感タイプのものと比べて全然性能が違います。炎天下でも着けている部分は涼しくすることができます」
「これは量産できるのか?」
「そのためには、設備を増強しないといけなくて。それで今日はお願いに参りました」
「なんだ?」
「うちの会社はこの製品で上場を目指すって社長が言っていまして」
「そうか」
「そのためには、この製品が大きな利益を生むことを証明しないといけないんです」
「そうか」
「悠斗さんに投資して欲しいんです。ただし、今度は億単位になるんですが」
「分かった」
「えっ」
まぁ、そのくらいで暑い国の人たちが喜ぶものができるならいいだろう。
上場ってすごいことなのか、よくわからないな。
まぁ、喜ぶ人がいるならいいだろう。
細かい話は俺は苦手だから、渋川社長まかせだな。
ちゃんとツボを押さえて決めてくれるから便利だ。
「発展途上国の人たちが買えるくらいまで早く安く作れる体制を作れ。そのためなら、億単位の投資は喜んでするぞ」
「ありがとうございます」
「あとは、渋川社長と話してくれ」
「分かりました」
そうか。
俺が最初に投資した商品が形になるのは嬉しいものだ。
早く安く作れるようになって、発展途上国で配ってみたいものだ。
さて、この会社、上場までいけるんでしょうか。




