第154話 俺は三輪山に登拝した
「それでは、あちらから三輪山にお上りください」
俺とみゆちゃんは、大神神社の御神体の三輪山に足を踏み入れた。
しかし、三輪山に入るまでに思った以上の時間が掛かってしまった。
三輪山に入るためには、神官による登拝の説明を受けないといけない。
それが始まるまで10分待ち、さらに5分の説明時間がかかった。
「あーん。11時11分に頂上は無理~」
みゆちゃんは、エンジェルナンバーの11時11分にこだわっているみたいで、間に合わないのを気にしていた。
俺はというと、天気の状態がすごく気になっていた。
「三輪山は頂上まで普通の人で1時間以上かかります。集中豪雨が来そうなので今はやめておいた方がいいですよ」
そんな注意を受けてしまった。
「いえ。雨を止めてもらうために登るんです」
そう言って、入山したのだ。
三輪山は思ってより急な山道でゲリラ豪雨になったら、確かに大変そうだ。
みゆちゃんが足を滑らして道から落ちたら、大変なことになりそうだ。
もちろん、俺も同じことが言えるが。
だいたい1時間の山登りだとは思っていなかった。
ちょっと登れば、山頂につくのだと思っていた。
「はやく、悠斗さん」
しかし、驚いたことにみゆちゃんがすごく元気だ。
体力は俺の方があるはずなんだが、なぜかみゆちゃんの方が登る足取りが軽い。
俺はついていくだけで、息が切れてしまう。
「ちょっと待てよ」
すいすい登っていくみゆちゃん。
がんばってついていく俺。
「悠斗さんがんばって」
先に行って待っているみゆちゃん。
「だけど、すごいな、みゆちゃん。きつくないのか?」
「不思議なの。三輪山に入ってから身体が軽くて」
なにか神懸っているな。
「ほら、がんばって。11時11分までにできるだけ上に行きましょう」
「そうだな」
登り始めて20分ほどで、11時10分になってしまった。
山頂はまだまだ上だ。
「あ、あそこはどう?」
「そうだな」
柵で囲われた磐座がある。
磐座というのは、大きな岩で古代においては神事が行われていた場所。
三輪山には3つの磐座があり、この場所は中津磐座と呼ばれている場所らしい。
「よし。ここで奉納をするぞ」
「はい。お酒と卵」
俺たちは商店会長が用意してくれた奉納品を磐座に捧げた。
そして、二礼二拍手一礼で参拝した。
「どうか、雨は降らさないでください」
心の中でお願いした。
すると、不思議なことが起きた。
気温が一気に変わったのだ。
それまで低気圧が近づいているとき特有の気温変化で、寒い状態だった。
それが11月とは思えないくらい暖かな空気になったのだ。
「あ。蛇神さん、喜んでくれている」
「そ、そうだな」
確かに喜んでいる感覚がある。
三輪山の神様に歓迎されている感覚。
そして、俺の身体の中にエネルギーが注入されている気持ちがする。
「ほら、みゆの身体、温かくなっているわ」
みゆちゃんが俺の手に触れた。
たしかに温かだ。
「ほら、明るくなってきたわ」
「本当だな」
蛇神さまは、雨を降らさないで欲しいという願いを聞き入れてくれたようだ。




