第144話 俺は猫好き女に縁があるらしい
「だから!猫グッズなんです」
元パラコンで悠斗カンパニーの渋川社長と会社の社長室で俺は話をしていた。
そこに乱入してきた女性がいる。
「悠斗カンパニーの入社面接は来週だぞ」
「どうやって、ここに入ってきたんですか?」
困ったもんだな。
受付嬢は何をしているんだ?
「悠斗さんと渋川社長が一緒なら最高です。絶対人気が出る企画なんですから」
まぁ、急ぎの案件がある訳でもないし。
しかし、受付嬢はあとで〆ておこう。
「それでどんな企画なんです?」
「猫グッズです」
「はぁ~」
俺はこの女が熱く語っている猫グッズの魅力が分からない。
確かに猫はかわいいと思う。
癒されると思う。
だからと言って、猫グッズを作れば売れるなんて思えない。
「要は招き猫みたいなものか」
「冗談じゃないわ。あんなの猫グッズじゃないわ」
スマホで、お気に入りの猫グッズをひとつひとつ説明する。
しかし、分からないな。
「却下!」「合格!」
「ええっーーー」
俺が却下を言うと同時に渋川社長が合格を出した。
どこがいいんだ、この女の企画は?
「面白いですよ、悠斗さん。ちゃんと猫好きが喜びそうなグッズだけ選んでいます」
「そうかな」
「そうよ。渋川社長、分かるのね」
「こう見えても、私は昔は格安ファッションの買い付けしていましたから」
「そうなのか」
「シーズンの売れ残りを買いたたくんです。翌年のシーズン前に少し安くすれば売れそうなのを」
「ほう」
「だから、女性が喜ぶものは詳しいんです」
まぁ、渋川社長が合格出したならいいか。
☆ ☆ ☆
3日後。
まだ、悠斗オフィスの社長室で。
「まずは、これです」
こいつ、ずいぶんと行動が早いな。
猫島に行って、民泊の猫女、あ、名前忘れた猫女でいいか。
猫女と仲良くなって、写真をたくさんもらってきた。
そこから、猫シルエットのイラストを大量に作った。
それをヴィトン風のモノグラムにして、帆布のトートバックに印刷したものを持ってきている。
「どう、かわいいでしょ」
「うーむ」
どうも、この女のかわいいがよくわからない。
「どうなんだ、渋川社長」
「いいですね。これ原価いくらでしょう」
「直接原価は200円よ。シルクスクリーンだから、今は手間がかかるけど」
「いくらで売るんだ?」
「猫島では1500円の値札をつけておいたわ」
「いけますね。売れているか、確認してください」
「待って」
猫島の猫女に猫グッズ女が電話している。
「3つ売れたわ」
「おお。すごいな」
この女、商売のセンスがあるのか?
「うん、やっぱりいけますね。大量生産しましょう。原価は100円を切るところを探しましょう」
「すごいな。どこに売るんだ」
「猫グッズは、ウルトラデリバーって雑貨卸の会社がやっているサイトが人気ですから」
渋川社長はそっちの方面はよく知っているから、安心だ。
「で、次はこれよ」
「なんだこれは」
透明のプラスチックの猫か。
大きさは8センチくらい?
「これを陶器で作りたいの」
「はぁ? どうやって?」
「さぁ」
こいつ、何も考えていないな。
俺も何も考えていないんじゃないかと、言われている気がするがこいつは俺以上だな。
「とにかく、かわいい陶器の猫なのよ」
「だから、どうやってそれを作るんだよ」
「分かりました。窯元を紹介してもらいましょう」
おいおい、渋川社長、甘やかすなよ。
こういう奴は付け上がるんだからな。
「もしもし、全国商店街連合会さんですか?」
おおー、あの会長さんか。
「分かりました。備前焼窯元、ですね」
「備前焼、岡山ね」
「はい。今、窯元の住所と紹介いただいた釜主の名前のメールが来ます」
「じゃあ、行ってくるわね。メールはここに転送しておいて」
行ってしまった。
しかし、すごい行動力だな、猫グッズ女。
「しかし、あんな適当に作ったので備前焼なんて作れるのか?」
「適当でもないですよ。あれは、しっぽ巻き座りと言って、猫の座り方のひとつです」
「そうなのか」
「適当に見えてちゃんと作っていますよ。だいたいあれを形にしたのは、3Dオタクのあいつです」
「なんで分かるんだ」
「出来がいいというのがひとつ。昨日、私に彼から確認がありましたし」
なるほど。
なんでウチなのかと思ったが。
猫グッズ作りと流通の必要なところが揃っているからか。
「とにかくいいじゃないですか。猫グッズを作りたいっていう気持ちは本物ですから」
「まぁ、やりたいって気持ちは認めてやろう。しかし、だな」
そう言って、自分でびっくりした。
やりたいっていうのを止める考え方をしているじゃないか。
悠斗カンパニーの考え方じゃないな。
やりたいことを思い切りやる。
それがビジネスとして成立しなくてもいい。
やってみてから、先を考える。
あの猫グッズ女こそ、悠斗カンパニーらしいんじゃないかって。
まぁ、あいつは長い目で見てやるしかなさそうだ。
猫グッズ、売れるのだろうか。
まぁ、売れなくても気にしないのが悠斗カンパニー……それでいいのか?




