第141話 俺は神社の神様のことを知った
「いいですね。佐那河内。美しい映像が撮影できます」
「そうだろ。この風景で紗夜華のハープの音。どうだPVのイメージできたか?」
「はい。できました」
ビデオ撮影のビックルは頭の中でイメージを組み立てる女性らしい。
俺はあいまいなイメージで話しているから、具体的な映像はすべてビックルとアイカムの双子映像チームに丸投げだ。
「それじゃ、紗夜華さん、ハープをお願いします」
「はい」
カメラテストしている3人。
俺とみゆちゃんはちょっと離れた。
うむ。やっぱり紗夜華のハープはいいな。
聴いているだけで、何かを刺激してくる感じがする。
癒しの音楽なのに、それだけで終わらない。
何かやる気を引き出す効果というのか。
またがんばりたくなる、そんな音楽だ。
「いいわね。紗夜華さんの音。私、歌ってみていい?」
「おお。歌ってみろ」
今、奏でているのは、誰でも知っている「翼が欲しい」の曲。
みゆちゃんは歌うのが好きだからな。
「うん。みゆちゃんの声と紗夜華のハープも合うな」
「そう?」
「優しい感じがぴったりだ」
「嬉しい」
今日は紗夜華のPV作りがメインだが、みゆちゃんの歌を入れたものも追加しよう。
「あの。PVのイメージが決まりました」
「ほう」
「佐那河内には棚田があるんです。棚田が見えるとこで紗夜華さんのハープを奏でている姿を撮ります」
「いいな」
「持ってきたドローンも使いますよ。近づいて離れて角度を変えて紗夜華さんを撮影します」
「そうか」
なんとなくイメージが伝わってきた。
早速、アイカムの運転で撮影場所探しだな。
「きっと、いいPVになるわね」
「俺もそう思うぞ」
☆ ☆ ☆
「最後の撮影はここか」
棚田の撮影が終わり、最初に紗夜華に会った神社に戻ってきた。
「この場所、紗夜華さんが大好きな場所なんですって」
「そうだな」
「ここで、紗夜華さんの声も入れて撮影します」
「そうか」
ここで撮影するのは、紗夜華のために作られた曲。
元ゴーストソングライターだった、一輝が渾身込めたと豪語していた曲。
彼も紗夜華のハープの奏でる音色を聞いて一発でファンになってしまった。
この場所で、あの曲を演奏するのか。
すごいPVになることだけは分かるぞ。
俺はみゆちゃんと話している。
俺とみゆちゃんも、この神社が好きなんだ。
最初に来たときから、何かいいものを感じている。
「ね。ここに来るとなんかほっとするの」
「俺もだ」
「じゃあ、紗夜華さんのPV成功を祈願して、お参りしておきましょう」
「そうだな」
撮影は3人に任せて俺とみゆちゃんは神社の拝殿の方に向かった。
「この神社、なんて名前なの?」
「そういえば、聞いていないな」
「あ、あそこに書いてあるわ」
「なになに、嵯峨天一神社。あ、猫島のとこと一緒じゃないか」
「そうなの?」
「猫島の山の上にな。ボロボロの神社があってね。今、改修しているはずだ」
「あ、悠斗さんが寄付したの?」
「まぁ、そうだな」
寄付というより、お金を降らしただけだがな。
「じゃあ、こっちの神社にも寄付するの?」
「ここはボロボロじゃないから改修は必要ないだろう」
「そうね」
「お賽銭として100万円ほど入れておこう」
「ええっ」
前に猫島の神社で1000万円ふらせた後、計算をしてみた。
俺は時給12億円だから、これを時給1200円のアルバイトに換算してみる。
100万倍だな。
すると、1000万円はアルバイトの人の感覚だと1/100万になって10円か。
要はお賽銭で10円入れたのと同じ。
100万円だと1円か。
ちょっとセコイなって感じだな。
まぁ、そうは言っても100万円だからいいか。
神社に書いてあったことによると。
この神社は猫島の天一神社と一緒で大白星神を祀っている。
もっとも、天照皇大神と月讀命の、太陽神と月の神様も祀っている。
太陽、月、星のセットの神社らしい。
「それでは、紗夜華のPVをよろしくお願いします」
100万円の束では賽銭箱に入らないから、バラバラにして1万円札100枚を入れてみた。
そのとき、神社を見下ろす山の頂上が金色に光っていた。
誰も気づくことはなかったが、そこにいた5人には確実に影響を与える光だった。
また、怪しい光が。
何が起きるのかな。




