第134話 俺は初恋の人から相談を受けた
「悠斗さん。こんな話、したくないんだけど」
初恋の人、さえちゃん。
相談があると言われて、個室のカフェで会っている。
別になんかいい展開があるかもしれない、と思ってここに呼んだ訳じゃないぞ。
今の俺だともれなく報道陣が付いてくる。
だから、秘密が保てるこの場所を選んだのだ。
この個室カフェはパラコンシェルジュお勧めの密談スペース。
政治家もよく利用しているというから、情報漏洩の可能性は薄い。
最近はちょっと気を抜くと俺の行動がテレビに出てくるから、女性と会うときはちゃんと場所を用意するようにした。
「それで、相談ってなんだ?」
「どうも、真治さん。浮気しているみたいなの」
なんと、あいつ。
宮古島でそんなことをしていたのか。
宮古島に単身赴任に行って、まだ1カ月しか経っていない。
それなのに、浮気とは。
たしかにな。
真治の仕事は周りが女ばかりだ。
運営チームの基本メンバーは女性で、リーダー格に少し男がいるくらい。
それも平均年齢が25歳くらいになっている。
あと、アイドルもいろいろと出入りしたりしている。
その気になれば、社内不倫はできてしまうだろう。
「だけど、確実なのか? 誤解とかないのか?」
「実は先週の週末、宮古島に行ってきたの。驚かせようと思ってサプライズで」
「もしかして……」
「そう。どうみても、女と一緒に暮らしている状態だったわ。本人はいなかったけど」
「しかし、中には入れないだろう?」
「ええ。女物の下着を干してあったの」
あーあ。
完全にバレてしまっているな。
まさかいきなりさえちゃんが来るとは思っていなかったんだろう。
「それで。どうするつもりだ」
「別れるつもりはないの。だけど、今のままじゃいやなの」
うーん、困った。
男女の問題は俺ではどうしようもないからな。
金で片付く話でもなさそうだしな。
「真治を東京に移すか?」
「そんなことできるの?」
「今、東京にも『アイなろ』運営オフィスを作ろうと思っていてな」
「あ、それなら、そっちに真治さんを?」
「それもできないことはない」
まだ本決まりではないのが難点だが。
『アイなろ』の活動がいろいろと広がってきているので、東京に運営チームが必要になってきているのは確かなんだが。
「だけどね。最近、落ち込んでいるの」
「なんでだ?」
「私って、本当に人を見る目がないんだって」
「そんなことはないだろう」
あ、黙ってしまった。
困った。何を言えばいいんだろう。
こういうとき、経験がほとんどないのは困ったことだな。
「だって、半年間、私がクラブで働いて家計を支えてきたのよ。悠斗さんのおかげでやっと仕事ができるようになったとたん、これよ」
「そうだな」
それしかいえないな。
「なんかね。馬鹿らしくなってきちゃって」
「そうか」
「私ももっとやりたいことをしたいって思っちゃったの」
「やりたいこと?」
俺は徳島でみゆちゃんと一緒にいるとき、やりたいことをやっている自分を感じていた。
やりたくないことを一切やらない。
さえちゃんは、そうではないんだな。
「うん。本当のこと言うわ。真治のことなんてどうでもよくなってしまったの」
「そうか」
「今は、悠斗さんと一緒に遊びたいの」
「遊ぶ?」
初恋の人で、人妻で。
いまでも魅力十分なさえちゃん。
さえちゃんから、遊ぶって言葉を聞いてドキっとした。
「そう。今日は私に付き合って欲しいの。1日」
「そうか。それもいいかもしれないな」
俺の中学のときに言えなかった言葉。
できなかった行動。
やりたいことをやっている今だからこそ、できること。
今はさえちゃんと一緒に遊びたい。
さえちゃんも俺と遊びたい。
やりたいことをする。
いいじゃないか、それで。
もしかして、俺はいままで複雑に考えすぎてきたのかもしれない。
やりたいこと、じゃなくて、問題が起きないこと。
そればかり選んできた。
だから、なろうアニメくらいしか、やりたいことが残らなかった。
チート財布を拾ったことで、やりたいことは大抵できるようになった。
それでも俺の中でやりたいを解放しきれてなかった気がする。
もっと、やりたいを追求してもいいのかもしれない。
俺は、今日1日は複雑なことを考えるのをやめた。
そして、やりたいか、やりたくないか。
それだけで選択してみることにした。
その結果。
初恋の人、さえちゃんとエッチな関係になってしまった。
主人公はやりたいことをやるって決めたみたいです。
大丈夫なのか?




