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第132話 俺はゆるい番組を見てみることにした

俺は今、美波と一緒に麻布のタワーマンションの部屋にいる。


「なに? いきなりの呼び出しは?」


巨大ディスプレイを準備して、シアターモードに照明をセットした。

薄暗いから、いちゃいちゃするのにもいいな。


「まぁ、あれだ。一緒にテレビを見ようと思ってな」

「もしかして、恋愛映画とか?」

「いや、若社長のほのぼの街歩きだ」

「なに、それ」


若社長というのは、昭和の映画ブームの頃、スターだった人だ。

当時はまだ20代ということで、若社長と呼ばれていた。


若社長シリーズの映画は人気で何本もつくられたらしい。

今は、映画の仕事もなくなって、週1本の街歩き番組があるだけだ。


「そういうな。犬神美尾ちゃんが出るんだ」

「あー、番宣ね」

「あの番組のいいところは、かわいい女の子なら、知名度関係なく出れることにあるらしい」


おっさんというより、じぃさんに近い元大俳優と一緒に街を歩くのは、まだ売れていない新人アイドル。


いかにも低予算だって分かる番組だ。

だから、番宣も金さえ積めば入れやすいらしい。


「ほら、はじまった」

「あ、本当。狼娘なのね、犬神美尾ちゃんは」

「そうだ。インパクトあるだろう」


今は、若社長が一緒に街歩きをする女性と待ち合わせのシーン。

あ、耳がついているからびっくりしているな。


「美尾ちゃんていうのか。かわいいなぁー」


この若くない若社長。

とにかく若い女の子が好きだって画面から良く分かる。


美尾ちゃん、一発で若社長を虜にしたな。

やるなぁー。


「この甘味処が有名店だ。一緒に入ろう」

「わたし、甘いの大好き」


美尾ちゃんは、バラエティ向きかもな。

アドリブがずいぶんと上手いようだ。


そんな感じで、番組はぐだぐだと続いた。


番組は甘味処を出て、街を歩くとこになっている。


「美尾ちゃんは特技は何かな」

「身体を動かすこと全般です」

「なんか、やってみてくれないかな」

「はい」


おおっー、すごいな。

まるで床運動の演技みたいにいろんな技を組み合わせて跳びまわっている。

それもガードレールとかブロック塀とかをうまく利用して、その場で考えた動きだと分かる。


「驚いたなー。まるで猫のようだ」

「猫ちがうもん。狼だもん」

「あー、そうだった。ごめんね」


その後も番組はぐだぐだ続いた。



「しかし、こんな番組、よく放送するわね」

「そういうなって。テレビは今、予算不足で大変らしいぞ」

「なら、悠斗さんは番宣しまくりね」

「そうもいかなくてな。番組を押さえている朴報道がいちいち邪魔してくると手配師が言ってたぞ」

「面倒くさいのね」



そんなことを言いながら、胸を俺の肩に載せてくる。

やわらかい。


まだ、駄目だぞ。

番組の最後に『アイドル革命』の番宣が入るんだから。


「それじゃ、私達のアイドル革命よろしくね」


そう言って、美尾ちゃんはバク転しながら、帰っていった。

アイドル革命の放送予定とかが表示されている。


「若いっていいな~」


そんな若社長のセリフでCMになった。


こっちは、もちろん。

あの時間になったぞ。


若社長は……再登場の予定はありません。笑


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