第128話 俺は悠斗カンパニーの面接に参加した
「それでは次の方」
悠斗カンパニーのために新たに六本木に借りたオフィス。
その会議室で俺と渋川社長が面接をすることになった。
美咲さんも俺の秘書として面接に参加している。
今回は、3分面接するらしい。
人数が多いから、3分で強制終了するルールだ。
応募は今、3千人を超えていて、まだまだ増えているらしい。
書類審査で1/10に減らして、今日は初めての第一次面接だ。
「あなたは3億円あったら、何をしたいのかな」
「僕は車には超詳しいんですよ。僕がチョイスした高級車を20台買ってならべます」
「それでどうするのか?」
「えっ、高級車20台ですよ、すごいじゃないですか」
「次!」
しょうもないのが混ざっているな。
こういうのは30秒で十分だ。
「私はAIを作ります」
「どんなAIだ?」
「なんでもできるAIです」
「どうやって?」
「3億円使って優秀な人を集めて」
「次!」
うーん。
アイデアがある奴って本当に少ないんだな。
そのくらい俺でも思いつくことだろう。
そんな奴はいらないな。
「高齢者にゲームを布教します」
「どういうことだ?」
「今の60歳の人ってインベーダーゲームができたのが大学生の頃なんですよ」
「ほう」
「子供の頃、ファミコンもなかったんですよ」
「それはそうだ」
「ゲームの面白さ、知らない人が多いんじゃないかと思うんです。もったいなくないですか?」
渋川社長と美咲さんの顔を見ると、「次」って感じだな。
だが、着眼点は面白いな。
「それで3億円はどう使う?」
「本当にゲーム好きな奴らを集めて、全国の公民館でゲーム体験会を実施します」
「ちょっと私の方からも質問はいいかな」
「なんでしょう?」
「それは、どこから利益が生まれるのかな」
「えっと」
そんなことを考えているとは思えない。
単にこいつ、ゲームの面白さを伝えたいだけだな。
「だってうちの親父が定年になって今、家にいて。何もすることがなくてテレビばっかり見ているんです」
「あー」
「テレビよりゲームの方が絶対面白いんです。それを知らないのは不幸ですよ」
「だから、どうビジネスにするのか?」
「えっと」
「合格!」
俺が宣言したら、渋川社長も美咲さんもびっくりしていた。
こういう奴でいいんだ。
ビジネスを考えるのは、あとでいい。
やってみたいことを思いっきりやる。
それだけの人集めだ。
ビジネスになんてならなくて1年間で60億円が溶けてなくなってしまう。
上等じゃないか。
これだけの無駄ができるのは、魔法の財布持ちの俺くらいだろう。
「アイなろのライブスペースを開拓します」
「おおっ、それはいいかもな」
中には、アイなろを絡めて、ちゃんとビジネスになる可能性がある事業計画書をもってきた奴もいる。
こいつは、渋川社長が「合格」を出した。
だんだんと面接のやり方が決まってきた。
誰かひとり、「合格」と言ったら合格になるらしい。
「王子アイドルを大量生産します」
「王子アイドル?」
「演歌だと氷河きよし、韓流だとペ・ヨウジン、です」
「うーむ。どういうアイドルだ」
「だいたい40歳以上のおばさんがキャーキャー言うアイドルです」
「ほう」
「今なら、フィギュアスケートのユスラン君です」
「どういう共通点があるのか?」
「おばさんがキャーキャー言います」
なるほど。
その着眼点は面白いな。
そこから先は、天才プログラマがAIに組み込めばいい。
属性を40歳以上女性にして、どんなアイドルに反応しているのか。
「そういうアイドルを王子アイドルと名前を付けて、アイなろで広めます」
まだまだ、事業計画まではできていないな。
しかし、面白い。
「「「合格」」」
渋川社長と美咲さんと、かぶった。
これは有望株だな。
結局40人に会って、合格が出たのが3人。
実際にかかった時間は1時間。
ほとんどは30秒で「次」になるから思ったより早い。
この面接方式はいいかもしれないな。
どんな会社にするつもりなんでしょう。悠斗カンパニーは。




