第122話 俺は「やりたい」を本気で考えた
みゆちゃんと一緒に高級ホテルのスイートルームで話した。
何を俺はやりたいのだろう。
「なろうアニメづくりじゃないの?」
「もちろん、そうなのだが。もっとあるのではと思うんだが」
「どんなこと?」
みゆちゃんに聞かれて答えがなかった。
自分の中にある「やりたい」が見つからない。
「こんなに有名人になって、すごいお金持ちなのに?」
「逆にな。そうなると、もっと、やりたいが見えなくなってね」
正直言って、お金だけなら何でもできる。
そうも言える。
だけど、「やりたい」が見えない。
だから、目の前のことを思いっきりやっている。
「みゆね。アイドルになってすごくよかったと思っているの」
「そうか。それは良かったな」
「うん。わたしってどんくさいとこがあって、逆上がりができなかったの」
やりたいことから、やりたくないことになってしまった。
ゆみちゃんにとって、逆上がりはやりたくないことの筆頭らしい。
「俺はそこそこかな。逆上がりは」
身体を動かすことは、苦手じゃなかった。
頭を使うことも、苦手じゃなかった。
苦手はやっぱり、人と一緒になにかすることだった。
ひとりでいる方が安心できた。
「みゆと一緒にいるのも、本当はそうなの?」
「それは違うさ。みゆちゃんは特別だ」
なぜか、みゆちゃんは一緒にいて妙に意識しないで済む人。
女性では唯一と言ってもいいかもな。
身体の関係ができた女性はいるけど、一緒にいて意識しないのはみゆちゃんが初めてかもしれない。
「そうか。俺は誰かと一緒に何かをするのが苦手じゃなくなっていたんだな」
「うん。悠斗さんを見ているとすごくいろんな人とすごいことをやってるように見えるの」
たぶん、そう見えるだろう。
チート財布を拾ってからの俺は何かが変わったのだろう。
「そうか、わかったぞ」
「何が?」
「俺がやりたいことだ」
「本当?」
うん、そうなのだろう。
俺はきっと、もっといろんなことをやりたいと思っている。
ただ残念ながら俺の発想には限界がある。
この発想の限界を取っ払うことができたら、もっと面白いことができる気がする。
「何がやりたいと分かったの?」
「会社を作るぞ」
「アイなろは会社になっているのよね」
「ああ。それとはまったく別の会社だ」
「何をする会社なの?」
「それはだな」
俺はみゆちゃんに話すことで、今、やりたいことが明確になった。
3億円で夢を叶えることだ。
「3億円?」
「そう、3億円。もし、みゆちゃんだったら、3億円で何をする?」
☆ ☆ ☆
「もしもし」
「悠斗さんですね。今度は何が必要になったのでしょう?」
「今度はちょっとでかいものだ」
「なんでしょうか?」
「100人規模の会社を運営できる経営者だ」
最低で従業員100人規模の会社。
俺はもちろん経営なんてできない。
だから、できる人を手配してもらうことにしたのだ。
パラコンシェルジュに。
「どういうことでしょう?」
俺は今、考えていることをすべて話した。
俺が今やりたいこと、それは俺の「やりたい」を実現する会社を作ること。
「年収3億円で100人規模の会社を立ち上げた経験者が欲しい」
「年齢は制限ありますか?」
「年齢、国籍、性別、無関係だ。ただし、ひとつだけ制限がある」
「どんなことでしょう?」
「俺の無茶な注文に応えることができることだ」
しばらく、間があった。
そして、パラコンシェルジュは答えを出した。
「ひとりだけ、候補がいます」
「本当か。100人規模の会社を立ち上げた経験者だぞ」
「はい。その人が立ち上げた会社は今、500人規模になっています」
「おおー。だけど、その会社の社長じゃないのか?」
「いえ、今は若い人に会社を任せています」
そんな人がいるのか。
驚きだ。
「その人を紹介してくれ」
「紹介は必要ありません。すでに悠斗さんは知っている人です」
「えっ、誰だ? それは」
「私です」
パラコンシェルジュさん、60歳。
前職はIT企業の創始者。
東証2部上場を機に相談役に。
パラジウムカード展開を日本で行う際の立ち上げに協力。
そのまま、パラジウムカードのサポートチームの相談役をしている。
趣味でコンシェルジュ対応もしていた。
今日までは。
なんだか、無駄にお金を使って、変なこと始めたみたいね。
続きが気になるなら、ブクマと評価をよろしくです。




