第121話 俺はみゆちゃんとふたりきりで話をした
紗夜華と別れて、今、俺とみゆちゃんは徳島市の高級ホテルの一室にいる。
ベッドが2つある寝室とは別に、リビングがある部屋だ。
「どう思う、悠斗さん?」
「あのハープはすごいな」
正直な話をすると、紗夜華は普通の女子高生だった。
見た目は特別アイドルらしくはない。
しゃべった感じも、あまり自信がない感じの娘だ。
アイなろで美少女や芸達者なアイドル達を見慣れているから、普通にしか思えない。
ただし、それはハープを奏でる前。
一度、ハープを奏でて音に合わせて歌い始めると世界が変わる。
聴いている人を魅了せずにはいられない。
「あのね、わたし。紗夜華ちゃんがハープを奏でているとき、ハープが光ってみえたの」
「本当か? 俺だけではないのか?」
そう。紗夜華がハープを奏で出すとハープが光り輝いてみえた。
どういうことか分からないから黙っていたが。
「悠斗さんもみえたのね」
「ああ。実は俺は、あの光を前にも見たことがある」
そう。
猫島の天一神社で一千万円を降らしたとき、神社の奥が輝いてみえた。
その時の光と同じ感じがした。
「そんなことがあったのね」
「不思議なことだな」
不思議と言えば、今、みゆちゃんとホテルでひとつの部屋にいる。
これも不思議なことだ。
みゆちゃんも俺も用意されたスイートルームになんの抵抗感も感じなかった。
今日はこのまま、このホテルに一泊する。
普通なら女性とふたりきりで泊まるというだけで、俺は過剰反応をする。
みゆちゃんもそうだろう。
しかし、俺たちはひとつの部屋に泊まるのが自然な感じがした。
「わたしね。悠斗さんと一緒にいると安心するの」
「そうか。俺も同じだ」
ここで何か気の利いた一言でも言えれば、みゆちゃんとの仲も進展するかもしれない。
しかし、その部分は今でも苦手なままだ。
「今回、悠斗さんと一緒にアニメづくりができてうれしいの」
「そうか」
「みゆはね。不思議と悠斗さんと一緒ならなんでもうまくいく気がしているの」
「そうだな」
実際、みゆちゃんはアイドルになってから、うまくいかないことが多かった。
でも、俺が関わることで人気は急上昇した。
逆に関わることができなくなったら、またうまくいかなくなった。
今は俺が関わり続けているから、うまくいっている。
みゆちゃんが所属しているSheShockガールは人気があり、テレビにも時々出るまでになっている。
特にセンターを務めるみゆちゃんは一番人気で、CMの話も来ているらしい。
「みゆは悠斗さんとずっと一緒にいたいって思っているの」
「そうか」
「悠斗さんは?」
「俺か? もちろん、同じだ」
「嬉しい」
言われてみれば、俺も同じじゃないか。
みゆちゃんがいなくなったら、「アイなろ」に対する気持ちが薄れた。
何事にも本気になれない俺がいた。
今のアニメづくりも同じだ。
みゆちゃんが参加しているから、俺は楽しくアニメづくりに没頭できている。
もしかしたら、俺にとってみゆちゃんは特別なのかもしれない。
「みゆ、アニメがんばるね。悠斗さんの夢だから」
「俺の夢か。そうだな」
ずっとなろうアニメを観てきた。
何事にもこだわらないで生きてきた俺にとって、なろうアニメは例外だった。
なろうアニメには俺を動かす力があった。
今、俺はアニメを創っている。
なろうアニメとは違うかもしれないが、俺が一番観たいと思っているアニメだ。
観る側から創る側に。
今、俺はやりたいことをやっている。
そして、一緒にいたい人と一緒にいる。
チート財布のおかげでやりたくないことは何もしていない。
やりたいことをする。
それが実現している。
「俺は幸せだな」
「みゆも幸せ」
ふたりでいて、ふたりで幸せを感じていた。
もっとも。
ふたりとも恋愛経験が少なすぎて、恋愛としての発展はいまいち進まなかったが。
良い感じになっている。
それも自然にね。
もしかしたら、アプロディーテ効果?
ちなみに紗夜華のハープの音色のイメージは、生山早弥香さん。ユーチューブで聞いてみてね。




