第120話 俺はアプロディーテに会いに行った
「アニメに出てもらうアイドルに会いに行くつもりなんだ」
「あーいいな。私も行きたい」
久しぶりにみゆちゃんと電話をしている。
最近は俺もみゆちゃんも忙しくなって、会う暇もない。
「それじゃ、一緒に行くか」
「えっ、本当?」
「明日朝、チャータージェットで行くから、明後日の朝には帰れるぞ」
「どうかな。明日の予定、なんとかなるかな。マネージャーに聞いてみるね」
「アイなろ」には、スペシャリストとして、マネージャーもいる。
みゆちゃんは、その中でも、10年の経験がある女性マネージャーが専属でついている。
「マネージャーがなんとかしてくれるって。悠斗さんと一緒の行動だって言ったら、それまで渋っていたのが急に変わったの」
「あー。そういうこともあるな」
最近、「アイなろ」関係では俺の行動は最優先っていう風潮ができている。
元々、計画性がない俺だ。
ついつい、周りに影響を与えてしまっているな。
「だから、明日は悠斗さんと一緒の1日ね」
「そうだな」
なんかデートの約束をした感じだな。
デートというより旅行か。
一泊だしな。
「それじゃ、明日、朝6時に落ち合おう」
☆ ☆ ☆
「すごーい、車。これって又買ったの?」
「そうよ。悠斗さんの3台目の車ね。ポルシェとランボルギーニはふたり乗りなの」
運転しているのは美波。
俺とみゆちゃんは、後部座席にゆったり座っている。
この車は、ロールスロイスのゴーストってタイプ。
高級車でスポーツタイプでない車。
どっちかと言うと豪華って感じだな。
ピンクの特別カラーだから3500万円らしい。
今日も美波にペニンシュラホテルまで送ってもらって、そこからヘリで佐那河内まで3時間くらいだ。
今日はみゆちゃんと一緒だから、楽しいな。
「それでどんな人なの?」
「全然分からないんだ。アイリッシュハープの奏者だってことしか知らないんだ」
☆ ☆ ☆
「もうすぐ着きますよ」
「もしかして、あの神社か?」
「はい。指定の住所は、神社のものですので」
佐那河内村の運動公園にヘリで着いた俺とみゆちゃんは、村役場の人の車で指定の場所まで連れていってもらっている。
この村にはタクシーはないようで、村役場が対応してくれた。
「あそこは、なんて名前の神社なのか?」
「嵯峨天一神社と言います」
「天一神社!」
なんと、猫島の怪しく光った神社と同じ名前じゃないか。
ただの偶然だよな。
「着きました」
俺たちは車を降りたら、すぐに気づいた。
ハープの音色が響いている。
「先に彼女は着いたみたいだな」
「きれいな音」
うっとりした顔でみゆちゃんが聴いている。
俺もこの音が好きだ。
神社ではひとりの少女がハープを奏でていた。
流れるような動作で奏でている。
俺とみゆちゃんは、声を掛けるのも忘れて聴き入ってしまった。




