第110話 俺は『アイドル革命』を大々的に発表した
「あー、記者のみなさん。わざわざ、来てくれてありがとうな」
俺はいつもの調子で記者に語りかけた。
記者と言ってもひとりではない。
45mのメガヨットのメインデッキに用意された記者会見場にぎっしりと集まっている。
全部で400人を超える記者の数だ。
「今日はプロジェクト『アイドル大革命』の発表なので、俺の個人的なことは後半に用意してあるから、そっちで聞いてくれ」
どうせ、ここに来ているほとんどの記者は新プロジェクトになんか興味ないだろう。
あるのは、俺の私生活。
魔法の財布を持っていると宣言した俺の。
特にこんなスーパーヨットでの発表だからな。
プロジェクト『アイドル大革命』は単純に言うと1クールのアニメに過ぎない。
「アイドルになろう」というサイトでアイドルの卵になった女の子達が本当のアイドルになるまでのお話だ。
ただ、その制作方法が変わっている。
「人気作家になろう」という小説投稿サイトで活躍している小説家が、「アイドルになろう」で活躍しているアイドルのひとりを選んでストーリーを書く。
それも小説家とアイドルのペアはひとつではなく、7つのペアになる。
それぞれの小説がひとつの舞台で連携しながら書いていく。
最終的には、それらの小説が原作となってアニメが作られる。
どのアイドルが主役になるかは、「人気作家になろう」の人気ランキングで決定される。
そんな複雑なプロジェクトなのだ。
「すみません、質問です。アニメに登場するアイドルは実際に活動しているってことですよね。するとノンフィクションになるんですか?」
「いや、違う。実際のアイドル活動をモチーフにしたフィクションだ。逆に小説に合わせた活動をアイドルが行うこともある」
あれ? なんか反応が薄い。
『アイドル大革命』がどういうものなのか、理解してもらえなかったかな。
「なんとなく分かるんですが、どうもイメージできなくて」
「そうなのか」
「では、分かりやすいとこを質問させてください」
「おう」
「製作費はいくらくらい予定していますか?」
「20億円だ」
「えーーー」
ざわめきが起きた。
やっぱり、お金の話は分かりやすいな。
普通のアニメだと1クール13話で製作費が4億円。
その5倍を投入するということだ。
「しかし、それでは相当ヒットしてDVDがバカ売れしないと赤字になりませんか?」
「そんなことは気にしていない。俺がどんな男か言ってみてくれ」
「魔法の財布を持つ男、ですよね」
「必要な金は魔法の財布から出す!」
歓声があがった。
やっぱり、魔法の財布の話はウケがいいな。
マスコミ連中には、特に。
「すると、今流行りのアイドルアニメがベースになるんですよね」
「いや、そんなアニメを作る気などない」
「どういうことですか?」
「このアニメの原作者は『人気作家になろう』の作家達だ。この映画は『なろうアニメ』だ」
おー、このフレーズもウケるな。
「なろうアニメ」は劇場版が毎年作られるほどの大人気だ。
しかし、「なろうアニメ」と言うと、ファンタジー世界への異世界転生がお約束だと思われている。
俺はそう思わない。
「なろうアニメ」の特徴はチートとご都合主義にある。
このあたりをアイドルの世界に導入すれば、アイドルのなろうアニメが作れるはずだ。
チートは「アイなろ」の存在だ。
そのうえでご都合主義を爆発させれぱ、アイドル界に革命は起こせるぞ。
ノンフィクションでは、そんなにうまくいくはずはないが、
なろうアニメだったら、やりたい放題だ。
悠斗はそう考えていた。
しかし、この作品がフィクションのはずが、ノンフィクションになるとは。
さすがに魔法の財布持ちの悠斗にしても思いつかなかったのだ。
やりたい放題の宣言をしたらしい。笑




