第109話 俺の隠遁生活は終わりを告げた
「見つけたわ、悠斗さん!」
あちゃ、見つかってしまった。
秘書代わりの美咲さんだ。
あんまりマスコミがうるさいから、まだバレていない猫島で隠遁生活をしていたのに。
どこにいるかは、美咲さんにも、美波にも内緒にしていた。
知っているのは、誠人だが絶対に漏らすなと釘を刺していたのに。
「どうして、ここが分かったんだ?」
「猫ユーチューバーを手配したでしょ。それも何人も」
確かに今、猫島には峰子をはじめ、猫ユーチューバーが10人くらい来ている。
瀬戸内海の猫島の猫たちを紹介する動画を作るためだ。
「あまりにいきなり猫ユーチューバーが動いたから、きっと悠斗さんが関わっていると思って」
さすがに美咲さんはするどいな。
俺のかくれんぼを最初に見つけたのは美咲さんか。
「もう、休暇は十分取りましたわね」
「そうだな」
「それじゃ、明日、記者会見をしますよ」
「えっ、記者会見は終わっただろう」
「あれじゃないわ。新しいプロジェクトの記者会見よ」
「新しいプロジェクト?」
「アイドル革命よ」
あ、そうだった。
文秋砲が炸裂してマスコミが大騒ぎになったから、プロジェクトを仕掛けたのを忘れていた。
「アイなろのプロデューサ連中は優秀ね。悠斗さんが軽く口走ったことをしっかりと組み立て終わっているわ」
「おー、そうなのか」
「今、マスコミは悠斗さんの情報が欠乏して、悠斗さんが何かしたら、すぐに飛びつくわ」
「それは……あまりうれしくないな」
また、マスコミに追いかけられるのは、勘弁してほしい。
「そう言うと思ったわ。だから、アイドル革命の発表は私達のホームグランドでするわ」
「ホームグランド?」
「そう。メガヨット『アイなろ号』よ」
「完成したのか! 今どこにあるんだ」
「もう、瀬戸内海に来ているわ」
なんと、準備が良いことか。
メガヨット『アイなろ号』は、宮古島でクルーザーを買ったとき、同時に発注しておいた船だ。
さすがにすぐに用意はできないと言われた。
2か月してやっと完成したらしい。
全長42m、140フィート級のクルーザーだ。
このクラスのクルーザーは、メガヨットと呼ばれる。
クルーザーの中でも、特に大きく豪華なものだ。
1カ月前には建造中だったが、発注主のアラブのお金持ちが政治的に失脚して引き取り手がいなかった。
そこでパラコンシェルジュが俺に話を持ってきた。
すぐに使えるクルーザーではないと断りを入れて。
「よし。そっちはできあがってからもってきてくれ。金は出す」
そう宣言しておいた。
すっかり忘れてしまっていたが。
メガヨット『アイなろ号』は、
4つのデッキがある。
一番上のサンデッキ。
その下のアッパーデッキ。
甲板にあたるメインデッキ。
船体の中にあるロワーデッキだ。
メインデッキには、通常バーが付いたパーティができる内装になるが、『アイなろ号』にはステージがしつらえてある。
だいたい観客300人くらい入れるステージスペースだ。
ここでアイドル公演をするつもりだ。
ロワーデッキには船室は8つあり、それぞれにトイレ・シャワーが付く。
高級ホテルの一室といった感じのベッドルームになっている。
他にもいろいろと設備が付いている。
プールはメインデッキの先頭部に作られている。
とにかく、どこを見ても豪華としか言いようがない。
これで20億円だ。
しかし、今回はアイドルステージとしてではなく、アイドル革命の記者発表の場として活用することになった。
『アイなろ号』が間に合ったおかけでホームグラウンドにて記者発表ができる。
それまであまり乗り気じゃなかったが、記者会見も面白いかなと思うようになった。
「よし、アイドル革命の記者発表は明日18時。どれだけ記者を集めることができるんだ?」
「何言ってんのよ。全部来るわよ。悠斗さんが今、何かをやろうとしているって話を流せば、いやって程、記者は集まってくるわ」
うん、それはいいな。
俺がワイドショーネタになるのは勘弁だが、アイドル革命の告知を全国一斉にできるのはありがたい。
まだまだ、俺が使える媒体は限られているからな。
メガヨット、やっと登場しました。
パラコンシェルジュさんの回で、ちょっと出てきたけどちゃんと売り込みしていたんですね。
やるなぁー、パラコンシェルジュさん。
今までで一番高い買い物です。
やっと、時給以上の買い物ができました。




