第99話 俺はマスコミ向けの会見を開くことにした
「それでは『アイドルになろう』オーナーのマスコミ会見を始めます」
うっ、フラッシュがやたらとまぶしいな。
テーブルに置かれた大量の録音装置とマイクも気になるな。
「あー。このほどは俺のことで集まってくれてありがとうな」
おおー、取材陣びっくりしているな。
さすがに俺もいつものしゃべり方はどうよって言ったよ。
だけど、マスコミ対策のプロは俺といろいろとしゃべった後に言ったんだ。
いつもの様にしましょうと。
「下手に演技をしても見抜かれます。相手がプロだから。悠斗さんは自然体でいきましょう」
その意見のまま、俺はいつものようにしゃべることにした。
「闇金のお友達がいると聞きましたが、本当のとこはどうなんでしょうか?」
「闇金の知り合いはいるな。借金で首が回らなくなった人を紹介してもらったりしてる」
ざわざわざわ。
「なぜ、そんなことをするんですか?」
「あー、人助けのためだな」
「そんなはずはないでしょう。確かに借金の肩代わりはするでしょうがその後が問題よ」
あー、なんかヒステリックな女性だな。
おっぱいちっちゃいし。
「その後? その後はまた困ったときのために、連絡先は置いてくるが」
「そうじゃないでしょ。どうせ、風俗かなんかに落とすんでしょ。それか自分の愛人にするの?」
うーん。久美子さんのケースがあるから、ないとは言えないな。
ただ、あれは同意のもとだぞ。
「愛人はいるが、借金はなかったな」
おおーーー、と声があがる。
「すると、不倫をしていることは認めるんですね」
「不倫? 愛人だが不倫じゃないぞ」
「結婚している人が愛人を持ったら不倫なのよ」
あ、あのおっぱいない女、ちゃんと情報確認していないな。
「あー、俺は独身だ。愛人も独身だ。それでも不倫になるのか」
「それだと愛人じゃなくて恋人でしょう。言葉をちゃんと使ってください」
うーん、こいつ、反論されると頭にくるタイプのようだな。
「ふたりの認識が愛人で一致している。愛人か恋人かは、あなたが決めることなのか?」
なんか言いそうになったが、隣の記者に止められた。同じ会社の記者かな。
「みゆちゃんとの関係を聞きます。おふたりはどういう関係なんですか?」
「今は、プロデューサかな。正式ではないが」
「だけど、スクープされた写真の頃はまだ、プロダクションのビーペックスに所属していましたよね」
「おう。あれは相談にのっていたのだ」
「本当ですか? まぁいいでしょう。では、その時に引き抜きを決めたってことですね」
「引き抜きはしていないな」
「ではなんで、別のプロダクションのアイドルをあなたがプロデュースすることになったんですか」
「それはだな。オーディションにみゆちゃんが応募したからだ」
「そんな訳ないだろうっ」
ないと言われてもあったからな。
良く知らないのに決めつける男だな。
「あー。オーディションに応募があったのは事実だ。もちろん、別プロダクションに所属しているのも知っていた。だから、正式に移籍の手続きをしたまでだ」
そこに何千万円程度のお金が動いたが、そこまで言う必要はないだろう。
質問している記者は納得できない顔をしているが、情報がない以上、攻めようがないみたいだ。
「次の質問いいですか?」
「いいぞ」
「あなたは、あちこちで多額な金を使っている話を聞きました。それも常識外の金額です。その金はどこから出てきたのですか?」
きなすったな。
この質問が一番、鍵になる質問だ。
これの答え方は、ずいぶんと練習させられた。
あせらず、しっかりと伝えよう。
「俺は、魔法の財布を持っているんだ」
「はぁ~。どういうことですか?」
「使っても減らない財布だ。いいだろう」
「いいだろうって。真面目に答えてくださいよ」
真面目に答えているんだが。
正直言うと、マスコミ対策のプロがこの話を採用しようと言ったときはびっくりした。
本当のことだが、冗談めかして言ったら採用されてしまった。
「それいいじゃないですか」
本当かよと思ったが、俺の収入源をぼやかすために、魔法の財布という言葉を使おうとなったのだ。
「真面目に答えているぞ。一般の人から見たら、俺の収入源は魔法の財布にしか見えないだろう。それこそ使っても減らない財布のような、だな」
うーん。半分嘘の気がするんだが。
完全に嘘だとは言えないな。
「要は、説明したくないってことですか?」
「そうではない。魔法の財布だと言っている」
俺はそれからも、いろいろな質問に答えた。
しかし、マスコミ対策のプロは優秀だった。
決められた言葉を選んで答えるだけでなんとかなってなってしまった。
会見の時間の2時間は大した問題もなく過ぎて行った。
魔法の財布が世間に知られた~
大丈夫なのか?




