服は自分で着る
最近は遠出にもすっかり慣れてきた雪樹。
そんな中碧流は変わらずに学校で出される課題などをこなしている。
服飾関係の大学に通っていてそれについての勉強中だ。
卒業などはどうなのかと少し気になっているようだが。
「なあ、碧流は自分で着てアップしているのか」
「そうだけど、顔はどうせ映さないから男でも関係ないしね」
「男で女物の服を着て写真を投稿するというのも不思議な話だな」
碧流は自分で作った服は自分で着てネットに上げている。
学校の課題などで作った服はもちろん、完全な趣味の服も上げていたりする。
「確かに碧流は男にしては細い方ではある、だが女には見えんぞ」
「流石に声や骨格までは誤魔化せないからね」
「顔は中性的というのか、それでも声や骨格まではどうやっても隠せんぞ」
「だから女物の服を着てネットに上げる時はその辺を隠せる服を着るんだよね」
「女物の服を学校の課題以外でもネットに上げてるのはただの趣味なのか?」
その辺は完全な趣味なのだと碧流ははっきりと言う。
顔を移さずに投稿するので女と間違えて返信が来る事もあるという。
それを眺めているのが楽しいのだという。
「そういえば卒業とかはどうなっているんだ?流石に来年辺りではないのか?」
「一応試験は来年にあるよ、今は分からないけどもし合格したらその時は独立かな」
「独立するのか、やっていける自信はあるのか?」
「うーん、自信はなんともかな、とりあえず卒業生のアトリエにお世話になるのかも」
「そこで下っ端から始めて腕をさらに磨いていくという事か」
卒業試験に合格出来る保証はどこにもない。
とはいえその試験には全力で臨むだけである。
合格した時には卒業生のアトリエで下積みから始める事になるのだろう。
「その時はここを出ていくのか?」
「二郎さんは住み続けてもいいって言ってるから、そのままお世話になると思うよ」
「そうか、なら拠点を失わずにすむな」
「それにバンドの人達もここに住んでた方が仕事の都合もいいとか言ってたしね」
「ここは立地がいいという事なのだな」
このラーメン屋兼アパートがあるのは都心である。
なので交通の便もよく、どこに行くにも楽に行けるのは大きい。
出版社が多くある街の少し外れにあるというのは好立地なのだ。
「ここに住んでいる人達は仕事の都合もあるが、立地や家賃もあるのだろう」
「うん、本来ならこの辺の家賃ってもっと高いからね」
「それがここはそんな平均と比べても安いという事か」
「そういう事だね、だから二郎さんがいいって言うならそれに甘えるつもりだよ」
「二郎も人がいいな、利益とかはそこまで気にしていないのだろう」
二郎の厚意には素直に甘えておく。
それはここに住んでいる人達の共通認識だ。
若者を応援したいおじさんの優しさなのかもしれない。
「それで卒業試験に自信はあるのか」
「それは課題の内容次第かな、それが分からないとなんとも言えないし」
「なんにせよ卒業してもここに住み続けるなら僕は安心だ」
「雪樹はまだまだ任務を継続するのかな」
「そうだな、中間報告として報告に戻ってもいいかもしれん」
雪樹も仕事が終わったとは思っていない。
とはいえ中間報告的な目的で一旦帰国するのは必要かもしれないと考える。
その上で任務を継続するかどうかの判断を仰ぐべきだろうと。
「僕も技術を持ち帰るというのが仕事だからな、まだまだこんなものでは足りないと思う」
「でも持ち帰った技術を使えるものなのかな」
「それは分からん、ただ僕の世界もそれだけ疲弊しているのも事実だしな」
「どの程度を使えるかは持って帰ってみないと分からないか」
「そうなるだろうな」
なんにせよ雪樹も仕事はきちんとしている。
持ち帰ったものがどの程度使えるかは完全に未知数だ。
とはいえ技術を持ち帰る事が任務なので、その技術についての情報を集めるのみだ。
「とりあえず来年が一旦の区切りになりそうだな、また仕事を続けられるといいが」
「その時はまた付き合うよ、せっかくの面白い話だしね」
「うむ、その時は頼むぞ」
「それじゃまた新しい写真をアップしようかな」
「またやるのか」
そんな碧流のいつものように写真をネットに上げる行為。
とりあえずは来年が一つの区切りにはなりそうだ。
任務継続が言い渡されるかは今は分からない。
「さて、腹が減った」
「はいはい、買ってあるから待ってて」
「うむ、あの味こそが至高だ」
そのまま夜食をいただいてからまた明日の仕事に向かう。
碧流も雪樹も来年が一つの区切りにはなりそうだ。
また任務を続けられるかは今は分からない。
ただ報告に戻る事は決めたようだ。




