癒やしの香り
最近は遠出で行く距離が少しずつ伸びている雪樹。
その気になれば二つ先の県まで行ったりしているようだ。
身体能力の高さから走って帰ってこられるのは大きい。
鉄道の線路を目印に移動するという事も覚えたようだ。
「咲夢、なにやらいい匂いがするぞ」
「ああ、これかい、これはアロマミストだよ」
「アロマミスト?」
咲夢は王子様などと言われてもこういう趣味もあったりする。
アロマミストをたまに部屋に使っているとのこと。
「アロマミストとはなんなんだ」
「そうだね、分かりやすく言うとヒーリング効果かな、リラックスとかね」
「つまり香りで精神を落ち着かせるとかそういう事か」
「そうだよ、アロマキャンドルとかもあるけど私はミストがお気に入りでね」
「ミストという事は液体でそれを散布しているという事だな」
咲夢はアロマグッズの中ではアロマミストがお気に入りなのだという。
寝具などに使う事でリラックスして眠れたりもするからだと。
雪樹は香りで精神的に落ち着きを得られるというのは意外そうに思った。
「僕の世界でも悪臭を撒き散らすような道具もあるが、それと似たようなものか」
「匂いっていうのはいい匂いでも悪い臭いでも精神的に作用したりするからね」
「確かに悪臭はそれだけで気持ち悪くなるな」
「だから当然甘い香りなんかは心を落ち着かせてくれたりするものなんだよ」
「匂いというのは面白いな、いい香りは精神的に落ち着くというのも」
アロマミストもそうした精神的なリラックスが目的の薬品ではある。
なので人体に直接吹きかけたりするのは当然危険である。
あくまでも薬品であるという事は忘れてはいけない。
「ただこの香りは長い間嗅いでいると少し鼻に来るな」
「使った量はそこまで多くないんだけど、雪樹には少しきついかな」
「そこまできついというほどではないが、なんというかな」
「感覚が鋭いといい香りでも少しきついのかもね」
「かもしれん、忍者という職業の職業病だな」
雪樹は忍者という職業の関係で嗅覚などが普通より少し鋭くなっている。
なのでアロマの香りでも長く嗅いでいると少しきついのだろう。
そうしたところは忍者という職業を感じさせる。
「しかしいい香りで癒やしを得るというのは面白い発想ではあるな」
「雪樹の世界にはそういうものはないのかな」
「そうだな、甘い香りで虫を食べるような食虫植物があったりはする」
「そういうのはあるのか、なるほどね」
「だから甘い匂いは相手を引き寄せるトラップで使ったりはする」
甘い香りでリラックスみたいな事に使ったりはしないようではある。
ただ相手をおびき出すのに甘い香りを焚いたりする事はあるのだとも。
世界が変われば同じものでも使い方は変わってくるのだ。
「アロマ、こっちの世界は面白いものが多いな」
「匂いっていうのは意外と大切なんだよ、食べ物もいい匂いがするとお腹が鳴るだろう」
「確かにいい匂いがする食べ物は美味しいな」
「それが匂いってやつだよ、逆に匂いを使ったゲテモノ料理があったりするからね」
「いい匂いがするのに不味い食べ物か」
そういう意味でも匂いというのは感覚を刺激するのだろう。
そんないい匂いがするゲテモノは世の中にはある。
まさになぜそれを作ったというようなものだ。
「咲夢はお気に入りの香りがあったりするのか」
「そうだね、レモンとかシトラスみたいな香りがお気に入りかな」
「柑橘系というやつか」
「うん、そういう香りが私には合っているみたいだからね」
「香水というのも見たが、香りは思っているより強いようだからな」
アロマでも香水でもそうだが、使いすぎるとその匂いは劇臭になる。
あくまでも適量を使うからこそいい香りになるのだと。
いい香りであっても使いすぎればそれはただの悪臭なのだ。
「匂いというのもまた人の感覚に強く作用する、だから癒やしになるという事だな」
「だからこそアロマも香水も使いすぎればただの悪臭になるという事だよ」
「薬も過ぎれば毒となる、香りというのはそういうものだな」
「うん、だからこれぐらいの香りが癒やしになるという事だね」
「咲夢もアロマミストが趣味というのは意外だった気がするな」
王子様などと言われても趣味は割と女性らしい。
咲夢はそんな好きなものにはお金を惜しまないタイプだ。
このアロマミストも結構いいものなのだという。
「咲夢の意外な一面を見たな、いいものだ」
「雪樹も興味を示す事はいい事だよ、気になるなら教えてあげるけど」
「そうだな、気になる事はそうする」
そんな癒やしの香りがするアロマミスト。
キャンドルではなくミストなのが咲夢らしさともいえる。
いい香りでリラックスする。
それは職業柄大切なのかもしれない。




