ラーメンの進化と種類
最近は遠出も完全に苦にならなくなってきた雪樹。
その一方で家賃代わりに二郎の店の手伝いもしっかりとしている。
そんな二郎の店のラーメンのスープも秘伝のようなものである。
長時間煮込むそのスープは二郎が考えたものである。
「なあ、そのスープはそんな長く煮込まないといけないものなのか」
「そうだね、ラーメンのスープはそれこそ10時間近く煮込むとかは普通だよ」
「近くという事はそれよりは短い場合もあるという事だな」
ここのラーメンは塩豚骨スープ。
野菜と豚骨を長時間煮込んで作っているものだ。
「ラーメンのスープというのはとても手間がかかっているのだな」
「まあね、だから厨房に立ってると汗が止まらんのよ」
「それで水をよく飲んでいたのか」
「温度計を見るとその暑さは分かると思うよ」
「確かにこの温度は凄いな、こんなに暑くなるのか」
ラーメン屋の厨房はそれだけ暑い場所。
とはいえそこで働く二郎もそれはもはや慣れたもの。
美味しいラーメンと水餃子をお客に提供するのも今ではすっかり手慣れたものだ。
「そういえばこの国だと餃子は焼いて食べるのが主流だと聞いたぞ」
「ああ、水餃子は僕の国ではそっちが主流なんだ、だからだよ」
「それでここでは水餃子を出しているのか」
「僕の国では焼餃子ももちろんあるけど、主に食べられてるのは水餃子なんだよ」
「サイドメニューというやつか、ライスなんかも置いているもんな」
焼餃子ではなく水餃子を出しているのは二郎なりのこだわりでもある。
国を捨てて帰化した身とはいえ故郷の味はやはり忘れられないのだろう。
だからラーメン屋で水餃子を出そうと決めたのだという。
「しかしラーメンといい水餃子といい汁物が多いのだな」
「僕の国だと炒め物にも油を大量に使ったりするからね、汁が多いのは昔からだよ」
「なるほど、そういう料理が多いというだけの事なのか」
「うん、まあこの国だとラーメンも餃子も僕の国のものとは別物になってるけどね」
「二郎の国のそれとはまた違うのか、この国で異なる進化をしたという事なのだな」
ラーメンも餃子も二郎の生まれた国のそれとはまた違うものに進化した。
そもそも料理として別のものに変わっている感じなのだ。
それは過去にその国の料理人がこの国の人の口に合うように作ったものが主流なのだ。
「美味しければいいとは思うが、僕の場合は毒に耐性もついてしまっているからな」
「忍者っていうのも大変なんだね、毒物への耐性がついているとは」
「食中毒を起こすような食べ物もよほど毒性が強くなければ割と食えるぞ」
「とはいえ流石にそれを食べさせるわけにはいかないからね」
「二郎の国とこの国の違いも聞けるのは興味深いぞ」
この国のラーメンはこの国で独自進化したもの。
本場のラーメンは具材の名前がメインな事が多い。
本場のラーメンはここで出しているようなものとは本当に違うのだ。
「二郎の国のラーメンとはどんなものなのだ」
「うーん、この国で食べるものに比べると麺にコシは少ないものが基本だよ」
「コシが少ないのか、つまり麺の食感からして違うんだな」
「そもそも麺料理自体がたくさんあるからね、ラーメンと一言では言い表せないさ」
「料理は国の文化というのは僕の世界でも言うが、まさにその通りなんだな」
二郎の国のラーメンは具材の名前をメインに置く事が多い。
この国の場合は醤油や塩といったようにスープが名前のメインである。
選ぶ時もそうしたスープの味で選ぶ事が多いのだ。
「国の違いも分かるというのは料理の面白さを感じるな」
「麺料理と言っても揚げ焼きそばとか汁なし担々麺とかいろいろだよ」
「そういうのは街にある中華料理屋みたいなところで食べられたりするのか?」
「中華料理屋に行かずとも中華料理のファミレスに行けば食えると思うよ」
「なるほど、覚えておく」
ラーメンと言うよりは麺料理である。
二郎の国ではラーメンだけでも地域による種類が多い。
広大な国だからこその食文化とも言える。
「二郎の国の話は何かと面白いな、いい勉強になる」
「まあ僕は国を捨てた人間だけどね、それでも故郷の味を作るのは好きだよ」
「この店のラーメンもそんな海を渡って進化したもの、実に興味深いな」
二郎の故郷の話は雪樹も興味深そうに聞く。
それは海の向こうの異国の話。
国を捨てるような二郎でも故郷の味は恋しいのだろう。
そんな国を捨てた理由はたまに垣間見えるのである。




