世界と政治
最近は遠出も苦にならなくなってきた雪樹。
そんな中でこっちの世界の政治についても目や耳にするようになった様子。
雪樹の世界は戦争が泥沼化し疲弊しきっている。
こっちの世界の政治は割とマシに見えているようだ。
「なあ、こっちの世界でも政治の腐敗などはあったりするのか」
「また何を聞いてくるのかな」
「たまに聞こえてくるからな、デモクラシー?というのを見た」
どうやら遠出先でデモの一団を見たらしい。
それでこの国や世界の政治も気になったようだ。
「少なくとも民が暮らせているのなら腐敗しているとも思えんのだが」
「うーん、分かりやすく言うならギリギリで持ちこたえてる感じ?」
「つまり腐敗しないギリギリの政治をしているという事か?」
「私が思うのは腐敗じゃなくて敵国の買収とかだと思うわよ」
「つまり政治家が外国に買収されているという事だな」
夏花が言うには政治家が買収されていて外国に優位な政治をしている。
腐敗という言葉で言うならこの国に限らず外国でも大差はないという。
要するに本当の意味でクリーンな政治家など絶滅危惧種なのだと。
「僕の世界でも過去に政治の腐敗の話はあったが、世界が変わっても変わらんのだな」
「全部とは言わないけど、偉い人なんて大体黒いものよ」
「本気で国をよくしようという政治家や経営者の方が珍しいという事なのか」
「そういう人にはそういう人が群がってくるものだもの」
「むぅ、政治も会社も上に立つ人間というのは難しいな」
上に立つ人間なんて大体ロクでもない。
夏花は割と裕福な家庭で育ち父親もそれなりに地位のある人だった。
だからこそそうしたものも多少なりとも見ていたのだろう。
「だがなぜ時間が経つと組織は腐敗していくのだ?」
「木は必ず上から腐るって言うものね、組織も国も上から腐っていくものなのよ」
「木は必ず上から腐る、言ったものだな」
「会社なんかでもそうだけど創始者だけが異端だった、上が変われば方針も変わるの」
「そうした結果上が変わっていくにつれ組織は腐敗していく、最初は違っていたのにか」
夏花曰く必ずしもそうというわけではない。
だが国でも会社でもトップが変わるというのは多くは方針が変わる事を意味する。
この国では選挙で政治家を選ぶが、必ずしも善良な政治家が当選するわけではない。
「だが組織の長が変われば方針も変わっていく、それは間違っていないな」
「外国なんかだと民衆が独裁者を生み出してしまった歴史があったりするものなのよ」
「つまり選挙で選んだ新たな国のトップが独裁に舵を切った、そういう事か」
「だから国でも会社でもトップが変わるというのは悪くなる事も普通にあるのよ」
「政治の腐敗は民が選んだ結果起こる事もあり得るという事か、難しいな」
雪樹の世界では基本的に王政なので、選挙などは当然ない。
なので政治の行く末は読めないものである。
戦争の泥沼化もそうした国の王達が選択した結果でもある。
「僕の世界は王政が基本だからな、選挙という制度はこっちではじめて見た」
「でも普通選挙制度って割と欠陥だらけだから、難しいものなのよね」
「善良な政治家を選べる保証がないから、という事か」
「実際それでロクでもない政治家がたくさん誕生してる歴史が世界中にあるもの」
「民が選べるからこそ民が正しい判断をする保証もない、当然の話ではあるな」
そして選挙では組織票が横行しているし会社が特定の候補への投票を強要したりする。
公平公正な選挙など幻想であるという事なのである。
さらには親が子に特定の候補に入れてくれと頼むような事もあるという。
「選挙というのは性善説が大前提にある、という風に僕には見えるな」
「私もお父さんに特定の候補に投票してくれって頼まれた経験があるもの」
「まさに公平公正など幻想でしかない、という事か」
「結局は政治の腐敗っていうのは人はみんな善ではない、そういう事でしかないのよ」
「悪意のある人間が政治家になりトップになり、政治の姿は何が正しいか分からん」
こっちの世界で見た政治の姿は自分の世界とは違うもの。
だが政治なんてものはどこの世界でも大差ないのだろう。
夏花がそうした経験をしているだけに雪樹も納得しているのだろう。
「なんにしても思っているよりは悪くなくよくもなくという感じなのだな」
「そうね、暮らすには困らないけど腐ってないとは言い切れないし」
「世界が変わっても政治はそんなもの、難しい話だ」
普通選挙制度の問題は多数あるのもまた事実。
悪意のある人間が選ばれるのは民衆の愚かさなのか。
誰しも正しい判断が出来るわけではないのだ。
雪樹が見た自分の世界と異世界の政治は人の問題であると教わったのである。




