夢は大きく
最近はすっかり遠くに行くのも慣れたものである雪樹。
碧流は学校で忙しい事もあり、基本的には夜に返ってくる。
そんな碧流にも夢はあるのは言うまでもない。
夢のために努力をしているのだから。
「碧流は今は何をしているんだ」
「俺?今は学校の卒業生のところで働いてるよ」
「だから帰ってくるのが遅い感じなのだな」
碧流も確実にその道を進んでいる。
卯咲子のほぼ専属のようになりつつも、それをきちんと作っている。
「それにしても男なのに女物の服を着るものなのだな」
「これはあくまでも着心地のチェックだから、普段から着るわけじゃないからね」
「それをネットにアップしているのも仕事の一環なのか」
「そうだよ、まあ少しは趣味なところもあるけど」
「…それは特殊性癖というものでいいのか?」
碧流は仕事とは別に作った服の写真をネットにアップしている。
体は割と細いので顔を隠すと女に間違われる事もあるとか。
それも楽しんでいるというのが碧流の少し意地悪なところである。
「だが夢には確実に近づいているという事なのだな」
「うん、この前はモデルの人にも着てもらえたしね」
「それはよかったではないか」
「でもいつかは外国とかでもモデルの人に着てもらえたら嬉しいんだけどね」
「僕は服の事はよく分からんが、華やかな世界なのだろう」
碧流もそんなモデルに着てもらう服を作っている。
そしてそれが売れればそれは言うまでもなく嬉しいものだ。
モデルに着てもらうというのは最高の宣伝なのだから。
「こっちの世界は安い服ですら質が高いからな、大したものだぞ」
「雪樹の世界から見たらそんな感じなんだね」
「僕の世界にも質のいい服は当然ある、だがこっちは安い服でも質がいい」
「そこは素材の問題なのかな?確かにこっちの世界だと糸とかの質もあるかもだけど」
「だからそれだけでも大したものだと思ってな」
雪樹の世界にも上質な素材の服は多い。
それでもこっちの世界は安い服でも質がいいという。
それは技術的なところの差なのかもしれない。
「それで卯咲子の専属は卒業したのか」
「別に専属ってわけじゃないんだけど」
「それでも卯咲子に信頼されているというのは認められている証拠だろうに」
「それでも俺はもっとたくさんの人に服を着てもらいたいんだけどなぁ」
「作り手としてのその気持ちは分からなくはないのだがな」
碧流も多くの人に服を着てもらいたいのが本音である。
なので卯咲子のほぼ専属も卒業したいと碧流は思う。
卯咲子に着てもらうのも宣伝になるのは確かではあるのだが。
「僕の世界だと服は身を守るものでもあるからな、着飾るだけではないんだ」
「そういえば雪樹が最初に着てた服って鋼みたいな繊維で編み込まれてたよね」
「ああ、軽くて頑丈な繊維なんだ」
「俺からしたらそっちにも興味があるんだけどねぇ」
「僕の着ていた服は身を守る意味もあるものだからなんだが」
雪樹が最初に来ていた忍装束。
碧流はその繊維にとても興味を示している。
糸でありながら鋼のように固くそれなのに柔軟に加工が出来る未知の代物だ。
「僕の世界では魔道士のローブや忍者の装束はこの糸で作るのが基本なのでな」
「こっちの世界にはない糸だから、俺も扱ってみたいと思うんだけど」
「服を作る人間なら扱えるとは思うが、世界の違いを感じる話ではあるな」
「雪樹の世界ってやっぱりこっちで言うファンタジーみたいな感じなの?」
「魔法があったりドラゴンがいたりするからな、そう表現してもいいとは思う」
そんな雪樹の世界はこっちでいうファンタジーな世界である。
魔法はあるしドラゴンもいる、政治の形なども当然違ってくるのである。
だからこそ服に使われている素材も違ってくるのだろうという事だ。
「やはり糸や繊維に興味があるのだな」
「そりゃ仮にも服を作る事を仕事にしてて夢にしてるんだからね」
「世界が違えば技術やそれを使う目的も変わってくるという事なのだろうな」
「この素材で服を作れたら軍隊とかは助かるだろうなとは思うけどね」
「こっちの軍隊は鎧を着込むなどではなく丈夫な服で身を固めるのだったか」
服を作る人間としての興味。
世界の違いはその興味を掻き立てる。
服が好きな人の性のようなものなのだろう。
「なんにせよ少しずつでも前に勧めているのなら素晴らしい限りだな」
「夢を見てるからには夢を追いかけたいからね」
「碧流もいい青年だな、全く」
雪樹の服の素材に興味を示す碧流。
それは職業病的なものでもあるのだろう。
異世界の服の素材は言うまでもなく未知のもの。
興味を示すのは当然なのである。




