武力を使わない戦争
すっかり遠出にも慣れてきた様子の雪樹。
そんな一方で家賃免除の代わりにラーメン屋でも働いている。
雪樹は二郎の過去について少し気になっている様子。
本人もたまにそれっぽい事は言うが、国を捨てた過去はそれだけの理由もあるのか。
「なあ、二郎は国を捨ててこの国に亡命という感じでいいのか」
「おや、僕の過去が気になるクチかな」
「気になる、とまではいかんが自分の国はそれだけ酷いのかと思ってな」
雪樹も自分の世界では戦争が泥沼化しているわけである。
そんなこっちの世界は平和に感じるがそれでも海の向こうは違うのだとも。
「二郎がこの国に流れてきたのも自分の生まれた国を信じられないからなのか?」
「そうね、雪樹君は戦争ってなんだと思ってる?」
「戦争?それは武力のぶつかり合いではないのか?」
「現代の戦争ってのはそれこそ武力を使う方が珍しいのさ、それこそ情報戦だよ」
「情報戦?つまりは敵を内部から攻め崩すという感じでいいのか?」
二郎の言う情報戦とはつまりそれを使い内部から崩していくもの。
それと同時に敵国を腑抜けにさせた上での一気に侵攻。
武力行使は最後の一手なのだとも。
「二郎は自由を求めてきたと言っていたが、それも関係しているのか?」
「そうね、僕の国には自由なんてなかった、自由は秩序を乱す敵だったのよ」
「だから自由を求めてこの国に流れてきた、という事なんだな」
「この国も敵国の連中が政治やその周囲の重役に入り込んでたりするからね」
「それは本当なのか?そんな感じは僕は感じないが」
二郎も祖国が何をしているかは知っているわけだ。
本物の狂気や悪意の前にはどんなに素晴らしい知恵森性も無力なのだと。
内部から攻め崩すという言葉の意味が分かった気がした。
「だが内部から攻め崩すのはいいが敵国の人間がそんな簡単になれるものなのか」
「暴力で従わせたりその国に帰化してそのまま政治家になったりするわけよ」
「だが外国の人間を帰化しているからといって政治に参加させられるものなのか」
「雪樹君はスパイってどんな人がなると思うかな」
「訓練された特殊部隊、とかではないのか?」
二郎曰くスパイとは現地の人間を適当に雇う事が多いという。
そしてバレそうになったらそのまま任務を解くのだと。
その方が安上がりかつ簡単にスパイ行為が出来るのだそうだ。
「僕はスパイというのは訓練されたエリートなのだと思っていたぞ」
「そういうスパイ養成機関みたいなのがある国も当然あるけどね」
「だが現地の人間を適当に雇う事もしているというなのか」
「例えばだけどその国にいる同じ国の人をスパイにするとかね」
「つまり外国で暮らしている同胞をスパイとして使うのか」
二郎が言う武力を使わない戦争。
それは武力はあくまでも最後の一手にする。
内部から国民を腑抜けにして一気に侵攻するのだという。
「武力を使わない戦争というのは情報や内部工作によって行うという事なんだな」
「そういう事ね、そして最後に一気に侵攻しておしまいって感じね」
「現代の戦争は進化しているな、こっちの世界は大したものだ」
「でも国にも理由があるのよね、昔から国内の争いが続いてた国だから」
「つまり二郎の祖国はそうした国内での争いはその人格を形成したのか」
二郎の祖国は国内での争いが絶えなかった国でもある。
だからこそこの国で言われるその国の人は昔に滅び去ったとも。
二郎はこの国が好きだし、祖国に帰るつもりもないのだと。
「二郎は平和な世界というのは憧れたりするのか」
「そりゃ憧れるよね、でも平和ってのは戦わないと手に入らないもんなのさ」
「平和は戦わないと手に入らない…」
「丸腰で平和を訴えても殺されるだけよ、平和のために武装して軍隊を持つのさ」
「戦争なんて誰もしたくないというのが本音だろうからな」
平和は戦うから手に入る。
平和のために武器を持ち平和のために軍隊を強くする。
矛盾しているようでそれは正しいのだ。
「なんにせよ技術の発展で戦争も変わっていくのだな」
「そうだね、平和に見えて武力を使わない戦争が繰り広げられているという事さ」
「見えないところで戦争は起きている、世の中は分からんな」
「だから世の中平和に見えるだけかもしれないよ」
「むぅ、少し考えさせられるな」
そんな二郎は今ではすっかりラーメン屋である。
ラーメン屋なのに水餃子が名物なのも祖国の味は覚えているという事か。
こだわりはきちんとあるようではある。
「さて、また少し出かけてくる」
「夜までには帰るようにね」
「ああ、また手伝いが必要なら言ってくれ、では行ってくる」
二郎の話に考えさせられるようである雪樹。
戦争は技術の進歩によってその姿を変える。
武力を使わずとも国は侵略出来るのだ。
技術の凄さを雪樹は思っていた。




