暑い日は辛いもの
最近はすっかり遠出するようになった雪樹。
そして最近は夏も始まってきたのか、気温も上がり始めている。
雪樹は湿度の高いこの国の夏はしんどいようだ。
そんな中卯咲子に誘われて外食に行っているようで。
「どこへ行くんだ」
「ハンバーガーを食べに行くんだけど」
「ハンバーガーな、卯咲子は意外と好きなものを食べているのだな」
卯咲子はモデルをしているにも関わらず食生活は自由である。
仕事の前には体を絞ったりもするらしいが、意外と細身である。
「ここか?普通のチェーンではないか」
「今は限定で辛いやつを出してるからそれを食べに来たの」
「卯咲子、お前は本当に辛いものが好きなのだな」
「好きだよ、激辛とかも普通に食べるし」
「僕とは味覚が正反対なのかもしれんな」
そのまま店に入って注文をする。
卯咲子は期間限定の辛いメニューを一通り頼んでいた。
雪樹は辛くない期間限定のものを頼んだようで。
「卯咲子はそんなに辛いものを食べてよく舌がなんともならないな」
「まあモデル仲間からは味覚音痴なんじゃないかとは言われるけどね」
「それにしても最近のハンバーガーショップはデザートまで食べられるのか」
「昔もいろいろやってたけどね、時代と共に変わってるってやつだよ」
「ニーズというやつか」
卯咲子はそんな辛い味のハンバーガーやサイドメニューを美味しそうに食べている。
モデル仲間に味覚音痴なのではと言われている卯咲子。
本人は味覚音痴ではなくただの辛党だと言って譲らないだけではある。
「ソフトクリームなんかは美味しいな、牛乳でこういうものを作れるのか」
「それも安いからねぇ、この国は物価の安い国とは言われてるけど」
「外国に行くと物価は普通にもっと高いものなのだな」
「らしいよ、外国出身の友人とかはこの国は物価が安いって言ってるから」
「外から見たこの国はそんな感じなのだな」
卯咲子曰く外国人の友人はこの国の物価は安いという。
実際このハンバーガーチェーンは世界中に展開している。
同じメニューでも母国だともっと高いと言っていた人もいたようで。
「僕の国でも物価の話は聞いたが、こっちでも似たような話はあるのだな」
「だからこの国だとなんでも安いって言ってたけど」
「物価の話は難しいものだな」
「外国の人から見た国はその人によって違うものなんだろうね」
「卯咲子の交友関係の広さにも驚くものだが」
卯咲子はモデルという仕事柄外国の人と話す事も割とある。
それにより外国から見たこの国の話は割と聞くらしい。
やはりどこの国も隣の芝生は青く見えるものだと感じているようだ。
「それにしても卯咲子は辛さを感じない味覚でもしているのか」
「そんな事はないよ?普通に辛いと思うし」
「ならなぜ平気な顔で辛いものを食べられるんだ」
「うーん、好きだからかな」
「僕には無理な話だな、辛いものを食べられないというわけではないが」
卯咲子は激辛も平気な顔で食べる程度には辛党である。
今回来たのも辛いメニューが出ているからだ。
雪樹も辛いものは食べられるが、激辛は流石に無理らしい。
「そういえば夏になると辛い料理がよく出るのはなぜなんだ」
「うーん、なんとも言いにくいけど辛いものを食べると汗をかけるから…かな」
「汗をかくのは別にいいが、かきすぎるのはマズイだろう」
「だから夏は水分と塩分を摂れって言うからね」
「暑いのに辛いものでもっと暑くなるとは、マゾヒストなのか」
雪樹にはそういった事はどうにも理解出来ないらしい。
暑いのにもっと暑くなったらパフォーマンスが低下するだろうと。
卯咲子も暑い日はミネラルを摂るようにとマネージャーなどから言われるという。
「なんにせよ卯咲子が変わり者だとは改めて分かった」
「変わり者とは失礼な、ただの辛党だよ」
「辛党というのはよく分からん生き物だな」
「私は美味しいと思って食べてるだけだからね」
「やはり味覚がおかしいのではないか」
雪樹も思う程度には卯咲子は重度の辛党である。
激辛のお菓子なんかも何食わぬ顔で食べている姿は凄く映るらしい。
モデル仲間に味覚音痴を疑われるのも分かった気がした。
「んー、満足、それじゃ帰ろうか」
「あれだけ辛いものを食べて平然としているのも凄いな」
「また付き合ってよね、さて、帰るよ」
そんな卯咲子に付き合わされた雪樹。
辛党の味覚はやはり色々おかしい。
雪樹ですら卯咲子の辛党っぷりには驚かされる。
世界は広いと実感していた。




