いつかなくなる好きなもの
最近は積極的に遠出するようになった雪樹。
そんな遠出した先でその街の味を食べたりもしている様子。
こちらの世界の食べ物はどれも美味しくその味に感動もしているほど。
自分の世界がどれだけ荒廃しているかも改めて感じたようでもある。
「こちらの世界ではパン屋でもハンバーガーが買えるのか」
「ん?もしかしてパン屋の惣菜パンの美味しさを知ったクチかな」
「パン屋の惣菜パンの美味しさは驚いたぞ」
どうやらパン屋の惣菜パンの美味しさを知った様子。
愛依もそういうのは結構食べるようで。
「だがなぜパン屋でおかずのようなパンが買えるのだ?」
「あれはこの国独特の発展なんだよ、外国のパンって基本的に固いからね」
「そういえば僕の世界でもパンは固いものと決まっていたな」
「固さもだけど、惣菜パンっていう文化の独特さだよね」
「コンビニで買えるそれとは違う美味しさだったな」
餅は餅屋というようにパンはパン屋なのだろう。
なんだかんだでコンビニでは専門店には勝てない。
そういう事を感じたのかもしれない。
「パン屋というのはこの国ではそんなに見ないが、珍しいのか?」
「うーん、パンはパン屋で売るっていうのは今は珍しいよね」
「あんなに美味しいのにか」
「一応パン屋が運営するコンビニのパンは美味しいよ、あと重労働だからね」
「重労働だからという事もあって個人経営のパン屋は少ないのか」
パン屋は想像以上に重労働だ。
他にも理由は何かとあるのだろうが、個人経営は確実に減っている。
コンビニの台頭も大きいとも言えるのだろうが。
「パン屋はコンビニに駆逐されたとかそういう事でいいのか」
「だと思うよ、でもたまにパン屋のパンが食べたくなるんだよね」
「そういえば駅ビルの中にパン屋があったが、あれは割と高かったな」
「ああいうのは元々そういう売り方だと思うから」
「パン屋自体はあるが、個人でやるようなものでもなくなっている、だな」
愛依もたまにパン屋のパンが食べたくなるのだとか。
なので仕事で他所に行った際に近くにパン屋があると買いに行くらしい。
個人経営のパン屋は決して豪華ではないが、その安心感が美味しいという。
「それにしてもパン屋で肉を焼いたりとかまでしているというのはなかなかに凄いな」
「惣菜パンは具までパン屋で作ってるところは割とあるよね」
「ただ今は機械もあるのだから、昔よりは楽になっているのだとは思うが」
「寧ろ生地を練るところから機械化してたりするよね」
「文明は使ってこそという事か」
今のパン屋は普通に機械化されているところは多い。
寧ろそうでもしないと重労働で過労死する程度の仕事がパン屋だ。
楽をするという事の大切さが分かる話でもある。
「こっちの世界のパン屋にも事情はあるのだな」
「まあパン屋が重労働だから、老夫婦とかになると畳むしかなかったりとかあるし」
「年齢による衰えには勝てないという事でもあるのか」
「うちの知ってるパン屋も何件かはお店畳んだもんねぇ」
「それだけ長くやっていて、同時に年齢には勝てなかったという話か、現実は酷だな」
愛依がよく行っていたパン屋も店を畳んだパン屋が複数あるらしい。
それはパン屋という職業の過酷さを語っている。
寂しいけどいつかはこういう日が来るというのを覚悟しなくてはいけないとも感じたのだと。
「永遠など存在しないという事なのだな、その話を聞くと」
「まあね、うちらアイドルも永遠じゃないから推せるうちに推せって言ってるよ」
「バンドもアイドルもいつかは解散するし、芸能人はいつかは引退する、だな」
「そういう事、推しは推せる時に推せ、これはアイドルの鉄則ね」
「アイドルを名乗るだけはあるな、好きなものは買えるうちに買えという事か」
好きなお店もいつまでもあるとは限らない。
だからこそあるうちに通って買いたいものを買え。
そしてお店のメニューも好きなものがなくなる前に食べておけという事なのだ。
「好きなものはいつかはなくなってしまう、だからあるうちに噛み締めよ、だな」
「アイドルも料理屋のメニューもいつまでもあるとは限らないのさ」
「若いとはいえ現役が言うと違うな」
「ふふん」
「好きだった店がなくなったのを経験しているから、経験者は語るものだ」
愛依の好きだったパン屋が閉店していった悲しさ。
永遠などないというのはアイドルも料理屋も変わらない。
そこにあった店がある日突然なくなるかもしれないのだから。
「個人経営は美味しいが同時に大変なんだな」
「うちもあるうちに食べておかなきゃね」
「僕もそういうものは大切にしないとな」
永遠などないというのは全てに通ずる事。
遠出先で食べた個人経営の店で食べたパンの美味しさ。
そして愛依も好きな店があるうちに食べておこうと思っている。
好きなものはいつかなくなるのだから。




