豊かになるということ
最近は積極的に遠出するようになった雪樹。
そんな遠出先で博物館などにもよく入っていると本人は話す。
見たものはいい糧としているようだが、同時に考えもするようではある。
この世界の博物館で見たものは雪樹に歴史というものを考えさせるようだ。
「なあ、豊かになるというのは実際どうなんだ」
「何か見てきたのかな?」
「僕の世界でもそうだが、豊かになって失われたものもあると思ってな」
それはこの世界が豊かになってきたという歴史について。
それを自分の世界とも重ね合わせたのだろう。
「豊かになるというのは幸せなのかとも考えてしまったのでな」
「そうだね、昔はよかったと言う人は多いけど、それは当時だからこそだよ」
「確かに今の便利さを捨てろと言われればそれはノーだろうな」
「私は当時に生まれてなかったからなんとも言えないけどね」
「だが昔はよかったか、そう言うのは少なからず未練があるのだろうか」
昔はよかった、そう言う人は少なくない。
だが当時から現代までを生きてきた人に当時に戻りたいと言う人は少ないだろう。
それは豊かさを捨てて暮らす事は辛いという考えがあるのだろう。
「だが豊かになって失われたものはあるのだろうな」
「昔に比べて貧しくなったっていうのは物価が上がったりしてるもあるのかもね」
「豊かになると人の心が貧しくなる、という事でいいのか?」
「便利なものが当たり前だと思うんだろうね、当時はもっと不便だろうから」
「確かに機械類なんかは昔はもっと、という感じはあるな」
実際たった100年で凄まじい発展をした国でもある。
だからこそそんな速度で発展した国において心の余裕もなくなるのか。
昔の人はよくも悪くも心がおおらかだったという事なのかもしれない。
「100年あまりでこの国は凄い発展をしたというのは驚いたものだが」
「実際100年前って江戸時代だよ?嘘のような本当の話さ」
「博物館で見たあの歴史資料の100年後が今というのは信じられんな」
「開国とかいろいろあったけど、取り入れられるものはなんでも取り入れたからだよね」
「100年というのは長いようで短いのかもしれん、この国の歴史でそれを感じた」
咲夢もそんな歴史については素直に凄いと思っているのだろう。
雪樹からしたら100年というその時間についてが一番の驚きなのだろう。
自分の世界なら100年でここまで発展出来るかというのも考えてしまう。
「しかし博物館というのは面白いな、100年前の資料が見られるとは」
「ああいうのはアナログだから残ってるものなんだよ、デジタルなら落雷一発だよ」
「はぁ、まあなんにしても豊かになるというのは必ずしもいい事ばかりではないのか」
「そうだね、便利になるのは素晴らしいけど、それが正しいとは限らないさ」
「人間的にも心が貧しくなった気がするというやつだな」
便利になったのと引き換えに人の心は貧しくなった気がする。
豊かになるというのは同時に堕落もさせるのかもしれない。
昔はよかったと言いつつも当時に戻りたいとは思わないのだろう。
「だがこの国が豊かになった歴史というのは凄いというのは確実に感じたな」
「100年だからね、雪樹の世界での100年とは違うのかも」
「僕の世界の100年前と言われると大して変わっていないだろうからな」
「まあこの国は2000年以上の歴史があるから、100年も短いのかもね」
「年月の経過というのは長いようで短く感じるものなのか、難しいな」
それでも雪樹からしたらこの国の発展の歴史のスピードは凄いと感じる。
100年という年月はまさにあっという間の100年なのだろう。
この国は豊かになったが、精神的な余裕は失ったのかもしれないと咲夢は言う。
「僕の世界の100年前、この世界の100年前、全く違うものだな」
「戦争もあったけど、兵器なんかも本当に様変わりしているからね」
「兵器の歴史か、それも世界の発展と合わせて見ると面白そうだ」
「飛行機なんてそれこそ100年ないような発展をしてるからね」
「航空機の歴史は100年よりも短いというのか?」
それについては興味が湧いたので今度調べたり見に行く事に決めた。
博物館で見たこの国の歴史は実に興味深いもの。
雪樹からしたら100年という年月の速さに何よりも驚いたのだろう。
「いろいろ聞いてすまなかったな」
「別にいいさ、何を思うかは雪樹の自由だしね」
「ああ、そうする」
雪樹もこの世界で思う事はあるのだろう。
それでも目的を遂行する事は忘れない。
持ち帰った技術で雪樹の世界は救われるのか。
それは今はまだ分からない。




