アメちゃん
最近は一人で遠出する事も多くなった雪樹。
電子マネーと最低限の現金を持っているとはいえ、たまに金欠になる。
とはいえある程度の距離なら走って帰ってこられるので問題はない。
そんな雪樹がその遠出先で出会った西の方の人は凄かったらしい。
「はぁ、なんだったんだあの人達は」
「あら、雪樹さん、どうされましたか」
「む?凛音か、先日遠出をしたらやたら騒がしい女性達に絡まれてな」
どうやら遠出をした際に賑やかな女性達に絡まれたという。
若い感じはしなかったというので、恐らく大阪辺りのおばちゃんだと推測される。
「それでこれをもらったのだが」
「飴ですか、それはたぶん大阪の人達だと思いますよ」
「大阪というのは西の大都市の事だろう」
「はい、この国は北から南まで割と文化が違いますから」
「あの機関銃のようなテンションが西のその大阪という地域なのか」
偏見は割とあるのだが、大阪は賑やかな街というイメージは割とある。
漫才などの文化が根づいている事もあり、お笑いの街でもある。
その一方で商業なども盛んだったりするのだが。
「なんというか、圧倒されたのだが、ああいうノリの地域なのか?」
「それはたぶん文化の影響だと思いますよ?西の方でも京都とかは割と違いますし」
「つまりあのまくしたてるようなテンションは文化が作り出したものなのか」
「私も割と偏見は持ってますけど、なんというかノリがいいんですよ」
「ノリ、話を振ったら広げてくれるみたいな感じか」
凛音も割と偏見は持っているようではある。
ただそれは大阪という地域性でもあるのだろう。
雪樹もそんな大阪のおばちゃんに絡まれたのは財布を拾った事かきっかけらしい。
「ただ凄い勢いは感じたが、悪い人という感じが一切しないのは凄いと思ったな」
「あの雪樹さんが圧倒されるというのはなかなかに凄いのでは?」
「僕はそもそもあんな凄い勢いで喋る技術なんか持ってない」
「そういうところは忍者という感じがしますね」
「ただ飴を普段から持ち歩ける程度には普通に手に入るのも大したものだな」
今の雪樹の世界では甘いものは貴重なものらしい。
戦争になる前は割と流通していたとは雪樹も言う。
そういった物資の不足もまた長く続く戦争によるものなのだろう。
「ただああいう話を広げる技術というのはなかなかに凄いとも思ったな」
「話を広げられるというのは簡単でもないですからね」
「あの話術は陽動などに応用出来れば物凄く使えそうだとは思ったな」
「門番と話し込んでいる隙に建物に忍び込むみたいな感じですか?」
「そうだ、あの話術はそれこそ注意を引きつけるのには最高に使えるとも思う」
そういうところは雪樹らしい考えとも言える。
話術も立派な技術であり、それに優れる者もまた役に立つ。
話で人を引き付けられるというのは立派な武器なのだから。
「話術という武器が当たり前に身についているという文化は凄いものだぞ」
「大阪だと漫才が文化にありますからね、話のリズムやテンポは上手いですよ」
「お笑いというものだろう?人を笑わせる職業というのも面白いと思うぞ」
「漫才師はそれこそ話術で人を笑わせるのが仕事でもありますから」
「笑わせるのか仕事、か、それもこの世界らしさではあるな」
雪樹の世界にも大道芸人や曲芸師のような職業はある。
ただ漫才師やコメディアンという職業はないのだそう。
つまりお笑いの文化の形が違うという事である。
「大道芸人なんかはなんどか見た事はあるが、あれは技術で売る仕事だからな」
「話術もまた技術だとは思いますが、方向性が違うんでしょうね」
「大道芸と漫才は本当に違うな、言葉で笑わせるのと体で笑わせる違いか」
「芸人は体を張ってこそとも思いますが、本業はやはりお笑いですからね」
「それも含めてこっちの世界の芸人というのは僕の世界ともまた違うな」
大阪のおばちゃん達と接して感じたのはその話術の凄さ。
話を広げられるというだけでその技術は褒めるに値する。
話術もまた立派な技術という事なのである。
「なんにせよこの飴はありがたくいただくとするか」
「関西でしか売ってないようなものかもしれませんしね」
「甘いものはいいものだ、本当にな」
思わぬ形ではあるが西の方から来ていた人達に触れた雪樹。
それは文化の違いを感じるにはいい経験だったのだろう。
忍者の雪樹には話術は覚える必要がなかったもの。
話術の凄さもまた改めて感じたようだった。




