お菓子を売るために
冬の寒い日がまだ続くこっちの世界。
とはいえ春は近づいているのか、多少は暖かくなってきた様子。
そんな中雪樹が街を歩いて少し気になった事があるらしい。
それはお菓子メーカーがチョコレートを売るために始めた日の事。
「すまん、最近街でチョコレートをよく見かけるのだが、何かあるのか」
「チョコレート?ああ、それはバレンタインだろうね」
「バレンタイン?何かのイベントか?」
バレンタイン、それは恋人にチョコレートを渡すというイベント。
もちろん強制されるイベントではないのだが。
「それでそのバレンタインというのはなんなんだ」
「好きな人にチョコレートを渡すっていうお菓子メーカーが考えた日だよ」
「お菓子メーカーが?要するにチョコレートを売りたくて考えたのか」
「歴史だとそうなってるね、まあ割と最近の話なんだけどさ」
「商魂逞しいな、そういうのは嫌いではない」
バレンタインはお菓子メーカーがチョコレートを売る目的で始めた日。
今ではすっかり定着しているものの、その日は血涙が流れる日でもある。
そんな咲夢はバレンタインには何かとあるようで。
「しかしチョコレートか、僕の世界では高級なものだったからな」
「チョコレートも高いものから安いものまでピンキリだよ」
「しかし好きな人でなくてはいけないのか?」
「うーん、最近はそうでなくてもいいよ、友チョコとか自分にあげるとかあるし」
「友チョコは分からなくはないが、自分というのはなんなんだ」
自分チョコというのは言うならば自分へのご褒美的なものだ。
こっちの世界では自分へのご褒美として美味しいものを食べるなどもある。
それは自分を甘やかすみたいな感じでもある。
「自分へのご褒美、なるほど、そういう考え方もあるのか」
「だから別に恋人とかそういう決まりはないのさ」
「そうか、なら僕も少し甘えておくか」
「それでいいと思うよ、ついでに高級なものを買わなきゃいけない決まりもないしね」
「チョコレート、こっちだと普通に安いものもあるのは驚くものだな」
そんな咲夢はチョコレートへの思い出は何かとあるらしい。
王子様と呼ばれていた事もあり同性からもらう事も多かった。
今ではあげる側になったようではあるが。
「咲夢は何かともらっていたのではないか?」
「まあね、女の子からもらうなんてのも多かったよ」
「流石は王子様だな」
「でもそれで思ったのは告白は女の子からしても全然いいって事だろうね」
「咲夢も女だが、王子様だったわけだからな」
咲夢が学生時代のバレンタインで経験し感じた事。
それは告白やプロポーズは女性の側からしても全然いいのだということ。
今でも世間的には告白やプロポーズは男からするものという空気が強いだけにだ。
「咲夢が王子様でも、生物学的には立派な女だからな」
「そうそう、だから女の人から王子様に好きですって言ってもいいんだよね」
「王子様と呼ばれていた事からの経験というわけか」
「そうなるね、世間的には告白やプロポーズは男からするものっていう空気が強いけど」
「同性に人気があってなおかつ王子様と呼ばれていた過去が語る経験という事か」
咲夢が経験したのはそんな女側から告白やプロポーズをしてもいいということ。
女でありながら王子様的な立ち位置にあったからこそ感じた事なのだろう。
バレンタイン自体女から男にチョコを渡すイベントというのも合わせてなのだろうが。
「とはいえいい事を聞いた、バレンタインにはチョコでも食べるとしよう」
「そうするといいよ、自分チョコってやつをね」
「うむ、自分チョコ、いいな」
「私もバンドメンバーに友チョコでもあげようかな」
「異性でなくてはいけないという事も今では特にないからこそだな」
咲夢もバンドメンバーに友チョコを渡すつもりらしい。
そこは仕事を超えた友人関係にあるからこそだろう。
とはいえプライベートには干渉しないようにしているようではあるが。
「咲夢もきちんとそういうものを渡す辺りは義理堅いのだな」
「付き合いも長いしね」
「なんにせよ義理でも他の人達にもあげるべきなのか」
「作るにしても買うにしても必ずというわけでもないからね」
「そうだな、一応考えておく」
そんな咲夢のバレンタインの経験。
それは王子様と呼ばれていたからこそ感じた事もある。
世間の空気なんて知らンと言わんばかりなのかもしれない。
「しかしチョコレートを売りたいからか」
「商売っていうのはあの手この手なのさ」
「まさに商魂だな」
そんなバレンタインをどうするか。
咲夢もメンバーには渡すつもりらしい。
王子様が感じた事と世間の空気。
それはどっちから行こうともいいのだという事なのかもしれない。




