モデルと体型
新年の休みも終わりみんな仕事モードに入った冬の日。
碧流も学校の方で卒業生の職場にお邪魔して仕事をしている様子。
それに対して卯咲子もどこか不満げのようでもある。
仕事が休みなので雪樹を部屋に呼んでゴロゴロしているようだが。
「何やら不満そうなのはなんでだ」
「不満ってわけじゃないよ、でも人は成長していくんだなってさ」
「碧流の事か、だが専属のようなもので専属ではないだろう」
卯咲子に真っ先に服を持ってくるのも碧流の今まででもある。
ただ仕事が本格的になってからはそれも減るのではないかと思っているようで。
「私としてはやっぱり独占したいなぁって思ったりね」
「お前、割と独占欲でもあるのか」
「それにバンドやってる人達もみんなスタイルがいいからねぇ」
「卯咲子はモデルにしては小さい方なのだったか」
「一応160は越えてるんだけどね」
卯咲子にも悩みは当然ある。
とはいえ仕事は自分の足で取ってきているわけでもある。
だからこそ碧流の服に対する信頼も大きいのだ。
「なんにせよ周りの人達がみんなスタイルいいからねぇ」
「モデルの仕事も取ってこれるなら問題はなかろう」
「碧流の服の仕上がりが仕事が始まってから遅くなるのを懸念してるんだけど」
「そこは仕方ないだろう」
「それに体作りもしなきゃいけないのがモデルの辛いところなんだよねぇ」
卯咲子のモデルとしての悩みは体型を作る事でもある。
冬はある程度肉をつけた方が服の見栄えもよくなる。
冬服は元々体が大きく見えやすいのもあるのだろう。
「夏は全裸になっても暑いけど冬は着込めば多少はマシになるのもあるんだよね」
「モデルは季節の服の宣伝のような仕事なのだろう」
「うん、冬はそれこそ毛皮のコートとかが多くなるね」
「モデルとしては努力しているのだからいいではないか」
「なんにせよ碧流の事は信じてるよ、だから私も仕事が出来てるんだし」
卯咲子も碧流には全幅の信頼を置いている。
その一方でマネージャーには少々言われているようでもある。
だがその信頼に変わりはないのも事実だ。
「そういう雪樹は碧流を信頼してるのかな」
「ああ、お互い学業などもあり一緒にいられるのは夜が多いが」
「まあみんな仕事もあるしね、雪樹も一人で遠出出来るようになったでしょ」
「ああ、この前は隣の県まで行ったりもした」
「そこまで行けるようになったんだ」
雪樹の行動範囲も確実に広がっている様子。
鉄道の行き先を乗り間違えたりしないようにも気をつけているとのこと。
そこは忍者なので走りながら電光掲示板を確実に確認していたりするらしいが。
「雪樹って乗り間違いとかしないよね」
「ああ、行き先を確認したらその電車は素直に待っていたりもする」
「流石は忍者、確認とかもきちっと出来るのか」
「一応時刻表は頭に叩き込んでいるからな」
「遅延とかがあるのに覚えてるのは大したものだね」
どのタイミングで乗っていけば最適解なのかなども覚えた上で行動している。
それにより隣の県に行ってもタイミングのいい時間で帰ってこられるという。
流石に特急や新幹線などで行ける距離には行かないようだが。
「私としてはクライアントも大切だけど、やっぱり碧流の服なんだよね」
「学生の服にそこまでの信頼を置くというのも大したものだな」
「そりゃ私にビビッときた服を作る人だもん」
「卯咲子の感性にハマった服という事か」
「そうそう、あれから碧流の服にぞっこんなんだよね」
卯咲子がそれだけ気に入ったという事でもある。
だから仕事とは別に個人的に碧流の服のモデルも引き受けているのが卯咲子だ。
仕事では基本的に用意されたものを着るものだとは分かっている。
「まあ私も碧流も夢を追いかけてるって事だよ」
「夢、難しいものだな」
「夢は見なきゃ叶わないし願いも願わなきゃ叶わないんだよね」
「それが夢を追いかけるという事なのか」
「そういう事だね」
碧流も卯咲子も夢を追いかける人間であるという事。
だからこそ精神的には鍛えられているのだろう。
ダメ出しを何度も食らっている事はそれだけメンタルを強くしてくれる。
「なんにしても今年も仕事バリバリ取ってこなきゃね」
「その様子なら問題なさそうだな」
「服が好きだからね、昔からね」
卯咲子も碧流も確実に成長しているのは分かる。
仕事はこれから増えていくのだろう。
雪樹も自分の任務を遂行するために遠出もする。
恵まれているというのは意外と分からないものである。




