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荒廃した世界を救うもの  作者: あさしおやしお971号
技術の発展した世界
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煩悩だらけです

こっちの世界では大晦日になっている冬の日。

バンドメンバー達は仕事はあるものの夜には帰れるとの事。

碧流や卯咲子は学校や仕事も休みで年末を過ごしている。

二郎の店も年末年始は閉店時間を早くするようだ。


「もう少しで新年なんだなぁ」


「新しい年か、まさか異界の地で新たな年を迎える事になるとは」


「定期報告みたいな感じで帰らなくていいの?」


雪樹も帰るための転移魔法陣の書き写しは持たされている。


とはいえ帰らなくても大丈夫だろうと思っているようだ。


「凛音さんにもらってるお蕎麦もあるし、年が明けたら茹でてあげるから」


「ああ、それにしても年末はテレビも特別編成なのだな」


「そうだね、年末はそういうのばかりだから一つの番組に集中出来るし」


「年末のイベントとかは何かあったろう」


「除夜の鐘が鳴るぐらいかな、あとは歌手がカウントダウンライブとか」


除夜の鐘、某脳を祓うと言われるあれである。

とはいえ実際の人達はみんな煩悩だらけではあると思うが。


寧ろ煩悩のない人間のほうがずっとレアな話ではあると思う。


「それで煩悩とはなんなのだ」


「うーん、邪な気持ちとか?」


「そう言われても分からん」


「エッチな気持ちとかそういうのかな」


「それが煩悩というのか」


煩悩については上手く説明する事は意外と難しいのかもしれない。

とはいえ人の頭の中は割と万年中煩悩まみれなのだろう。


除夜の鐘程度で煩悩が祓えると思うなよという話なのかもしれない。


「でも今年もあっという間終わったなぁ」


「そうだな、僕が来てからもあっという間だった気がする」


「俺としてもまさか異世界から猫耳の生えた忍者が来るとは思わなかったよ」


「こっちの世界は素晴らしい限りだ、技術がこんなに発展しているとはな」


「雪樹の世界とは全然違うって事か」


雪樹もこちらの世界の技術については何かと学んでいる。

最近は自分の足で遠出するようにもなっている様子。


忍者という事もあり記憶力などもいいようで。


「そういう碧流は学校の方はどうなのだ」


「うん、今度卒業生の仕事場に手伝いとして行く事が決まったよ」


「ほう?それはよかったではないか」


「本格的な夢への第一歩かな」


「夢を追いかけられるのもある程度の裕福さがあるから、僕の世界ではそうもいかん」


碧流もこっちの世界では裕福と呼べるほどでもない。

だが雪樹の世界から見ればこれでも凄く恵まれているのだという。


それは世界の違いを感じさせるには充分過ぎる話でもあった。


「僕の世界はどこの国も疲弊しきっている、夢なんて追える人は珍しいんだ」


「俺の世界でも大きい戦争は何度かあったけど、そこまで長いのはなかったな」


「戦争の話などは聞いた、僕の世界のやつはそれこそ泥沼というのだろうな」


「何年ぐらいやってるの?」


「分からん、僕が生まれた時はすでに戦時中だったからな」


雪樹が生まれた時にはもう戦争の真っ最中だったという。

そんな中でも新たな命が生まれ育っていく。


またその子供ですらも兵士として徴用されていくのだろう。


「でも戦争をいけないっていうのはやっぱり傲慢なのかな」


「そうだな、戦争とは何もないところから生えてきたりはしないものだぞ」


「つまり戦争に至るまでの理由がある、だよね」


「そういう事だ、戦争に向かわせるには相手の国を追い詰めればいいだけだからな」


「この国も外国からの資源を止められたから結果として戦争になったんだもんね」


戦争は何もないところから生えてきたりはしない。

雪樹の言う事はきっと正しいのだろう。


この世界では裕福な方ではない碧流ですら雪樹にとっては恵まれて見えるのだから。


「もうこんな時間か、そろそろ年が明けるかな」


「新しい年も僕のやる事は変わらんがな」


「それでいいと思うよ、雪樹は目的があって来たんだから」


「ああ、む?チャイムが鳴っているぞ」


「ああ、少し待ってて」


そのまま玄関に出る碧流。

訪ねてきていたのは思った通りの卯咲子だった。


その一方でバンドメンバー達と二郎も自分の部屋でゆっくりしているようだ。


「お待たせ」


「うん、来ると思ってた」


「碧流の煩悩は逃がしてあげないからね」


「やれやれ、これもいい年越しになりそうだな」


そんなこんなで碧流、卯咲子、雪樹は一緒に年を越したようだ。

バンドメンバー達はその足で初詣に行くらしく誘いに来た。


結局二郎も含む全員で近所の神社に初詣に行く事になった様子。


雪樹のこっちの世界での新たな年が始まるのである。

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