寒空とクリスマス
こっちの世界もすっかり冬模様になった冬の日。
もうすぐクリスマスという事もあり、各々がそれに合わせてやっている様子。
碧流や卯咲子はそれに合わせて服を合わせている。
バンドメンバーの方はクリスマスの仕事が入っているようで。
「なあ、その赤い服はなんなんだ」
「こいつか?クリスマスだよ、仕事が入ってるからな」
「クリ…?なんだそれは?」
雪樹の世界にはそもそもクリスマスのような文化がない。
それに長い戦争で荒廃した世界なので、そんな余裕もないのだ。
「クリスマス、そんな格好で何をするんだ?」
「幼稚園とかにプレゼントを届けに行くんだよ」
「プレゼント?」
「ああ、メンバー各自が各々幼稚園とかに行くんだ」
「よく分からんが、その服はプレゼントを届ける職業の服という事か」
樹希に限らずメンバー各自がそれぞれ幼稚園などを回るとの事。
それは結成当時から事務所の方でやっている仕事なのだとか。
もちろんそういう場所に行くので服はきちんと着込んでいくのだが。
「子供にプレゼントを届ける、そういう仕事なのだな」
「ああ、サンタクロースっていう初老で白髭のおじさんなんだけどな、本当は」
「だがそれに扮するというのは好きにしていいという事か」
「そうだな、この季節はどこもそんなムードだし」
「まさに季節のイベントという事だな、可愛らしくていいではないか」
そもそも樹希は男勝りな感じがあるので、可愛い服は好まないタイプだ。
それでもそれを着る事自体にはそこまで抵抗はない。
碧流もクリスマスには最低限の料理は用意するとも言っていた。
「初老で白髭のおじさん、サンタクロースは本来はそういう人なのだな」
「ああ、外国の文化ではあるけどサンタクロース協会なんてのもあるんだ」
「ほう?要するに慈善事業のようなものという事か」
「トナカイが引くソリに乗って空を飛んで煙突から家に入るみたいなやつなんだよ」
「それはただの不審者なのでは?」
雪樹の言う事も分からなくはない。
とはいえ流石に煙突のある家は今では珍しいし、トナカイもソリも飛んだりはしない。
そこはあくまでも夢を壊さないように配慮をするものである。
「そのサンタクロースというのは架空の人物なのか?」
「架空ではないけど、煙突から家に入るのと空を飛ぶのは流石に作り話だな」
「サンタクロースという人は実在するが、その話は作り話、なるほど」
「そもそも煙突のある家なんて今じゃ珍しいだろ」
「確かに工業用の煙突ぐらいしか煙突のある建物は見ないな」
それもあるのでサンタクロースの話自体は架空なのだろう。
サンタクロースという人物自体は実在の話ではある。
煙突や空を飛ぶというのは流石に本当だったら凄いものだ。
「作り話と実話が折り重なっているのだな、クリスマスというのは」
「まあサンタを何歳まで信じてた?なんてのは誰もが通る道だよな」
「実在するのだろう?」
「実在はするな、ただ基本的には親がこっそり枕元にプレゼントを置くもんだ」
「そんなものなのか?つまり協会員とかそういう事か?」
それもサンタクロースの様式美的なものではある。
何歳まで信じてた?というのはある種の通過儀礼的なものでもある。
それに欲しいものを願ってももらえるとは限らないのだ。
「プレゼントは子が親に希望を言うのか?」
「そんな感じだな、まあ頼んだものがもらえなかったみたいな話もたまにあるけど」
「そこは親なりの考えとかがあるのか?」
「おもちゃを頼んだのに国語辞典みたいなのは本当か嘘かは知らないけどな」
「ふむ、まあ希望通りのものをもらえればそれはそれで嬉しいものなのかもしれんな」
なんにせよクリスマスの悲喜こもごもである。
おもちゃを頼んだのに国語辞典みたいな話が実際にあるのかは分からない。
ただ嘘というわけでもないのだろう。
「なんにせよクリスマスは碧流が料理を用意してくれるそうだ」
「ならそれでもいいんじゃね?冬ではあるけど花より団子なんて言うしな」
「そうだな、美味しいものが食べられるならそれはそれでいい」
そんなクリスマスの仕事や楽しみ方は人によるもの。
バンドメンバーは仕事で幼稚園や保育園巡り。
碧流や卯咲子はそれに合わせた服のお披露目。
クリスマスに何をするかはみんな違うのだ。




