温かい豚汁
すっかり冬模様の季節になったこちらの世界。
そんな冬には二郎の店では冬限定のメニューが出る。
それはラーメン屋にしては少々珍しいもの。
とはいえ冬にはありがたい一杯でもある。
「はいよ、豚汁ね」
「サンキュな、冬はやっぱこれだわ」
「豚汁?味噌汁とは違うのか?」
二郎の店では冬限定で豚汁を提供している。
ラーメン屋ではあるが、それを提供するには理由もあるらしい。
「しかしこの豚汁というのは美味しいな、具沢山で暖まる」
「でしょー?水餃子と合わせるとまた美味しいのよ」
「なるほど、それが本当の目的か」
「豚汁と水餃子の組み合わせが最高に美味いんだよ、冬はこれが楽しみなんだ」
「確かに豚汁と水餃子の組み合わせは美味しいな、これは冬には嬉しいぞ」
二郎の店で冬限定で豚汁を提供している理由。
それは水餃子を豚汁に入れて食べる事が出来るからだ。
ちなみにノーマルの豚汁は200円で、水餃子入りは300円で出している。
「豚汁に水餃子を入れるとは考えたものだな」
「これが人気なのよね、ラーメンとセットでよく出るのよ」
「確かに寒い日にこれは暖まるな、ラーメンとセットだとなおさらだ」
「でもラーメンどんぶりの小さいサイズの器で出してくるのはな」
「とはいえわざわざ小さいお椀を用意するのも面倒なのだろう?」
小さいサイズのラーメンどんぶりで出している理由としては一応ある。
その理由は子連れ客が子供用に取り分ける際に使う器がある事。
それもあり器の数は充分確保出来ていて、子連れ客自体はマイノリティだからだ。
「はぁ、冬は体が暖まるものが身に沁みる」
「でも雪樹って猫の亜人なのにこういう塩分の高いものは平気なのね」
「獣人なら危険なのだがな、亜人は人間に近いからこういうのは平気だぞ」
「種族ってそういうもんなんだな」
「ああ、獣人はより獣に近いから体質なども獣に近いからな」
こういうところは種族の違いが出るという事だろう。
とはいえ雪樹はこっちの世界にもすっかり馴染んでいる。
割と順応性は高いという事なのかもしれない。
「こっちの世界の冬は思っていたよりも暖かいのか?」
「それは地域にもよるわよね、北の方は猛吹雪とかになるから」
「ここは都市部だからという事もあるのか?」
「だろうな、雪が降るのも珍しいし」
「ふむ、雪が降るのが当たり前と思っていたがそうでもないのだな」
ここは都市部という事もあり冬は寒くてもそこまで寒くならない。
二郎が言う通りに北の方に行くともっと寒くなるし、雪もたくさん降っている。
都会が夏に暑いのはヒートアイランド現象などもあるので、それが冬にも出るという事だ。
「そういえばこの豚汁に入っているのは野菜類が主なのだな」
「そうよ、里芋とかごぼう、人参とかネギとかいろいろね、あと豚肉も入れてるわよ」
「ごぼうとはこの木の根のようなものか?」
「昔も戦争で捕虜にごぼう食わせたら木の根を食わされたみたいな話はあったもんな」
「確かに外国の食材はその兵士の祖国とは違うのは当然だろうからな」
そういうエピソードもあるが、雪樹は特に問題なく受け入れている。
雪樹の祖国自体和のテイストの国らしいので、問題ないのだろう。
本人が和食が得意なのもそういう背景があるからなのだろうが。
「だが豚汁というのは野菜もたくさん摂れるからいいな」
「ただ里芋は好みが割と分かれる野菜なのよね、僕は好きなんだけど」
「この独特のねっとりとした感じは好みは確かに分かれそうだな」
「アタシは好きだけどな、豚汁には里芋がないと豚汁って気がしないし」
「そういうこの料理にはこの食材がないと、みたいなものはこの世界ではあるのだな」
この料理にはこの食材が欠かせない。
そういう雰囲気はこの世界の料理にはある。
なくても美味しいが、あるとその料理らしさが出るというようなものだ。
「ふぅ、満足だったぞ」
「雪樹ちゃんの仕込みは上手いから助かってるわよ」
「二郎のラーメンが美味いのは当然だけど、冬の水餃子入りの豚汁も美味いからな」
そんな二郎のラーメン屋の冬限定のメニュー。
水餃子入りの豚汁はラーメンと並ぶ程度には人気だ。
一番人気は水餃子だが、豚汁とラーメンもまた人気メニューなのだ。
水餃子入りの豚汁はアイ家の冬の限定にして人気メニューである。




