熱々の芋
こっちの世界も冬が徐々に近づいてきている様子。
そんな中凛音がこの季節の風物詩とも言えるものを買って食べていた。
雪樹もそれが気になっているようではある。
この季節に美味しいものと言えば言うまでもなく。
「凛音、何を食べているのだ」
「あ、雪樹さん」
「それは芋か?」
凛音が食べているのは石焼き芋。
こっちの世界では冬の風物詩とも言うべき美味しいあれだ。
「それは芋だろう?」
「はい、石焼き芋が駅前で売っていたので誘惑に負けてしまって」
「石焼き芋?ただの焼き芋ではないのか?」
「そうですね、さつまいもの調理法は何かとありますが、その一つですよ」
「なるほど、だが名前からして石を使って焼いたという事なのか?」
石焼き芋、文字通りに石の熱で焼いた芋である。
昔はよく軽トラの荷台でそれを焼いていたのが巡回していた。
最近ではそこまで見なくなったのは時代なのか、石焼き芋自体は売っているのだが。
「さつまいもか、僕の世界だとそれこそ貧しい国ではそれしかないと聞いたな」
「食べますか?」
「ああ、ではいただいておく」
「熱いので気をつけて食べてくださいね」
「分かった、しかし新聞紙で包むとは珍しいな」
石焼き芋と言えば新聞紙で包んだものが昔からのお約束だ。
現代だと汚いとかなんとか言われるのかもしれない。
とはいえ石焼き芋は新聞紙で包むからこそ石焼き芋なのだろう。
「はふっ、確かにこれは美味しいな、皮はパリッとした感じで中はとろとろだ」
「最近のさつまいもは粘度の高いものが主流ですからね」
「こっちは野菜の一つを取っても美味しさが全然違う、農家とは凄いのだな」
「それだけ努力しているという事なんでしょうね」
「貧しい国でもこんな美味しいさつまいもが食べられれば少しは違うのだろうか」
確かにこっちの世界のように美味しいさつまいもが食べられれば違うかもしれない。
創作の世界で見るようなさつまいもしか食べられないような貧しさ。
雪樹の世界にはそれだけ疲弊した国もあるという事なのだろう。
「そういえばさつまいもの調理法と言っていたが」
「はい、そろそろ美味しい季節なので今度ふかし芋でも作ろうと思ってて」
「ふかし芋?」
「要するに蒸し芋ですね、蒸して作るさつまいもですよ」
「なるほど、そういうものもあるのか」
凛音は元々料理が得意なのもある。
なのでさつまいも料理のレパートリーも豊富だ。
この季節はシンプルにふかし芋を作ってメンバーで分けて食べているらしい。
「それにしてもこの石焼き芋というのは美味しいな、体も暖まる」
「冬の風物詩ですからね、昔は軽トラの荷台で作って売るのが回っていたんですが」
「そんな事も出来るのか、この世界は凄いな」
「今はそんなに見なくなりましたね、ただ軽トラの石焼き芋は駅前とかでは見ますが」
「移動販売をしなくなっただけでそれ自体は今も生き残っている、という事か」
軽トラの石焼き芋は駅前などでは今でもたまに見る。
その一方で夜に移動販売をするようなのは今ではあまり見ない。
騒音問題などもあるのか、夜に急いで買いに行っていたのも昔の文化になったのか。
「しかし凛音は思っているよりも食べるのだな」
「石焼き芋はついつい買ってしまうだけですよ」
「やはり冬の風物詩なのだな、誘惑というのは分からなくはない」
「はい、やっぱり冬は石焼き芋の季節ですからね」
「そんな楽しそうに話しているのは珍しいな」
凛音の顔がもの凄くキラキラしている。
それはやはり冬に食べる石焼き芋がそれだけ美味しいという事なのか。
それだけ凛音は石焼き芋が好きという事でもあるのか。
「ふぅ、美味しかった、すまなかったな」
「いえ、また買ったら一緒に食べましょうね」
「さつまいもの調理法も何かとあるのだな」
「石焼き芋は家だと難しいですからね、落ち葉で焼くのは出来ると思いますが」
「落ち葉?それも気になるな」
落ち葉で焼く焼き芋。
それについても雪樹は興味を示した様子。
とはいえ都会でそれをやるのは難しいか、下手するとボヤ騒ぎになりそうだ。
「では私は夕食の仕込みがあるので」
「ああ、そっちも期待してるぞ」
「今夜おすそ分けに持っていきますね、それでは」
そんな冬の風物詩ともいえる石焼き芋。
雪樹もそれは美味しいと感じたようだ。
同時に美味しいさつまいもがあれば貧しい国もマシになるのかと思った。
食べ物が美味しいというのは大切な話である。




