約束の見学
冬も目の前に近づき温かいものが美味しくなってきた季節。
そんな今日は以前約束した通り咲夢とスポーツの秋季練習の見学に来ていた。
こっちの世界でも身体能力の高い人はいる。
それがスポーツ選手という事なのだが。
「ここなのか」
「うん、シーズンも終わってシリーズ出場チーム以外は始まってるね」
「こういう見学が出来るというのもいいものだな」
来ているのは野球のチームの秋季練習の見学。
今の時期は多くのチームの若い選手が秋季練習に参加している。
「目の前で見るとテレビで見るものとはまた違うのだな」
「公開してるチームとしてないチームがあるからね、今回はしてるチームだよ」
「ガタイもそれなりにいいな、ゴリマッチョでもなく適度な筋肉だと分かる」
「プロ野球はガタイがよければ打てるスポーツでもないからね」
「しかし見る限りだと若い選手が多いな」
咲夢が言うには秋季練習は基本的に若い選手が参加するものだと言う。
それは来シーズンに向けての体作りなどもある。
特に新入団の選手はプロに合わせた体を作るところからなのだ。
「若い選手が多いのには理由があるのか?」
「うん、主に体作りだね、来シーズンというかそれ以降も含めてね」
「流石に新人が即座に試合に出られるという事もないだろうからな」
「無理にやらせたら体を壊すからね」
「やはり怪我をしないという事は大切という事だな」
スポーツ選手に限った話でもない事ではある。
雪樹も自分の国の軍人などが怪我で苦しむのは見ている。
健康な体というのは戦う上において何よりも強い武器なのだと。
「試合に出られる人数も限られているスポーツという事でいいのか?」
「うん、若い選手は二軍で経験を積ませる、つまり成熟させるとかね」
「一軍や二軍というのは最前線の兵士と未熟な兵士みたいな考え方でいいのか?」
「大体はそんな感じだね、でも戦力にならないと言われればクビを切られる世界だよ」
「それはそうだろうな、戦力にならない者を養うほど優しくはないだろう」
プロの世界は非情な世界でもある。
戦力外と言われクビを切られる選手が毎年のオフシーズンに通達される。
そしてドラフトの上位指名選手でも容赦なくクビを切られる世界だ。
「期待されて入団したのに戦力外と言われるのは本人の問題か指導者の問題か」
「それはなんとも言えないよね、でも期待に応えられなかったっていう悔しさもあるよ」
「僕の世界でも指導者によっては潰れる軍人も多数いた、本人もだがそこもだろうな」
「ドラ1の選手はプロに入る頃にはすでにボロボロとも言われるしね」
「誰が生き残り活躍するかは数年後を見なければ分からないだな」
学生時代や社会人で活躍していた選手はプロ入りの時にはすでにボロボロ。
もちろん全てではないが、体を大切にするとはそういう事でもある。
試合後には体のケアをする事の大切さでもある。
「人の体は一度壊れたら簡単には元には戻らない、それは僕にも分かる」
「そうだね、それこそ怪我をしてしまえば怪我をする前と同じ事は出来ないのさ」
「パフォーマンス能力は確実に低下する、怪我をする前と同じ事は出来ないか」
「派手なプレイが褒め称えられて堅実なプレイは地味と言われる、そういうものだからね」
「しかし守備練習?を見ていると堅実な選手の方が技術は高く見えるな」
雪樹はそういうのは割と分かる方ではある。
本物のプロというのは派手ではないが確実に獲物を捌いていくもの。
職人芸というのは一見地味に見えるが、それこそが技術なのだと。
「やはりだな、守備が上手い選手は大きく動かずに捌いている」
「よく見てるね、でもそうなんだよ、守備職人は気づいたらそこにいるものさ」
「つまりボールが飛んでくる場所が直感で分かるという事なのだろうな」
「まさに歴戦の勘みたいなものだよね、それが守備職人なんだよ」
「守備の上手い奴の最小限の動きで捌いていくのはまさに職人か」
雪樹の目に映るのは守備の上手い選手の無駄のない動き。
直感でどこにボールが飛んでくるか分かるというもの。
守備職人とはそういうものなのだと。
「もう少し見ていくかな?」
「そうだな、正午ぐらいまで見たら帰るとする」
「分かった、時刻表とかも確認しておくよ」
雪樹が感じた上手い人とそうでない人の違い。
それは魅せるプレイよりも堅実なプレイこそが職人という事。
一見すると地味なものこそが職人芸だという事だ。
雪樹の目に映ったものはそんな技術的なものだったのかもしれない。




