勝利と娯楽
こっちの世界も冬が目の前まで来ている秋寒の日。
雪樹もこっちの世界に馴染んでいて娯楽から文化まで学んでいる。
そんな中雪樹はこっちの世界における勝利というものについて考えていた。
それは生きてきた世界の違いなのだろうか。
「なあ、こっちの世界では勝負に負けても相手を称えるものなのか?」
「ん?そうだね、スポーツマンシップなんて言葉もあるから」
「スポーツマンシップ、正々堂々と戦う事を誓うというものだな」
雪樹は生きるか死ぬかの世界で生きてきた人だ。
だからこそそういう姿勢には尊敬もすれば同時に甘いとも思ってしまう。
「僕はそれこそ生きるか死ぬかの世界で生きてきた、甘さは死に繋がる世界だ」
「こっちでも元々はルールなんて知らないとばかりにやってたらしいよ」
「つまりそういったラフな行為をなんとかしようとスポーツマンシップを?」
「うん、オリンピックは平和の祭典とは言うけど、要はスポーツの代理戦争さ」
「代表を選びその者達に競わせる、まあそうとも言えなくはないかもしれん」
オリンピックは平和的な戦争。
咲夢も上手く言ったものである。
だがルールなんて知らないとばかりの頃に比べれば平和なのだろう。
「相手を称える事は確かに素晴らしい、だが敗者には何も残らないのを知ってる」
「でも今から2400年前ぐらいのギリシャって国はほな戦争しよか、みたいな感じだよ」
「そんな軽々しいノリで戦争をしていたのか、昔は」
「そう、だから今は戦争なんて外国の話だし、起きるのも珍しいものだよ」
「むぅ、そう考えるとこっちの世界の今は平和なものなのか」
オリンピック発祥の地であるギリシャ。
そこでは昔は軽いノリで戦争が行われていたという話。
なので今は全然平和なのだとも。
「ただ僕の世界に比べるとこっちは技術も発展しているからな」
「勝利を求める姿勢はあらゆる戦いにおいて必要だよ、それは娯楽でもね」
「負けてもいい勝負が出来た、ありがとうでは駄目という事か」
「勝ちに貪欲にならないとチームでも個人でも強くはなれない、私はそれも知ってる」
「そういえば咲夢は運動も勉学も得意なのだったな」
咲夢は文武両道を地で行く秀才でもある。
ただ詰めが甘いどころか確実にとどめを刺しに行く程度には容赦もない。
それは自身を高めるために勝てるのなら勝ちに行くという考えの上での姿勢だ。
「咲夢は負けた事はあるのか?」
「そりゃあるよ、でも私はそれに甘んじたりはしない、もっと強くなろうと思うよ」
「その精神は見事なものだ、命までは取られないからなのだろうな」
「雪樹は命のやり取りをしてたんだよね、だからこっちの世界を甘いと言うんだろう」
「そうだ、それは平和であるという証拠でもあると僕は思っている」
そこは生きてきた世界が違うからこその感覚なのだろう。
命のやり取りをしていたからこそ甘いと感じてしまうもの。
それでも雪樹はそれが平和の証拠だとも感じている。
「平和な世界がどれだけ素晴らしいか、こっちに来てそれも改めて感じた」
「でも平和はタダじゃない、先人の屍の上に立っているものが平和なんだ」
「先人の屍、そうだな、国を守ってくれた先人がいるから平和がある」
「無抵抗で平和なんて維持出来ないのさ、平和っていうのは他国を脅迫して守るものだ」
「つまり武装や兵器などでガッチガチに固めるという事か」
平和とは先人の屍の上に立っているもの。
国を守ってくれた先人がいるから今の平和がある。
そして平和を守るとは武装や兵器などで他国を脅迫する事と咲夢は言う。
「ただ戦争は今でも世界のどこかでは起きているのだろう」
「うん、戦争とは行かなくても紛争や他に小さな小競り合いなんかもね」
「やはり本当の意味での世界平和は幻という事なのだろうな」
「歴史とは勝者が書いたもの、そんなものだよ、だから勝利を求めるのさ」
「咲夢が勝ちに対して貪欲なのも分かった気がするな」
咲夢が勝利に対して割と容赦ない理由。
勝利とはそれだけ意味を持つものだとも知っているから。
戦うという事の意味を雪樹も平和な世界で改めて思う。
「平和というのは素晴らしいものだな」
「雪樹の世界もきっと平和に出来ると信じてるよ」
「そのためにこっちに来たのだからな、成し遂げてみせるさ」
平和とは先人の屍の上に立っているものである。
命を賭けて国を守ってくれた先人達。
歴史とは勝者が書いたものであるという事。
雪樹もその意味を噛みしめる事にしている。




