値段は優しく
こっちの世界にもすっかり馴染んだ雪樹。
家賃を免除してもらう代わりに二郎の店を手伝っている事もある。
そんなラーメン屋の値段の安さは今のご時世珍しいものだ。
ワンコインで提供出来るというのは二郎の努力あってこそだろう。
「終わったぞ」
「どうもね、雪樹ちゃんの作る水餃子のタレはうちの味になるから助かるよ」
「レシピを守ってればそんなもんなんじゃないのか」
二郎の店はラーメン屋だが名物は水餃子だ。
タレも基本的には焼餃子と変わらないが、一応選択する事も出来る。
「水餃子もたっぷり仕込んでおかないと、どんどん売れるからねぇ」
「ここの水餃子は確かに美味しい、皮がモチモチで中の餡も美味しいからな」
「ラーメン屋なのに名物が水餃子ってのは二郎らしいよな」
「だがラーメンも美味しいぞ、まかないでも充分に美味しいからな」
「それはどうもね」
この店はラーメン屋にしては安い方ではある。
ノーマルなラーメンが原材料費の高騰などもある昨今でワンコインで食べられる。
とはいえ大体の客はライスや水餃子もセットで頼むからこそでもある。
「でもラーメンが今でもワンコインで食べられるって凄いよな」
「聞いた話だと材料費なども上がっていると聞いたが」
「それでも値上げするつもりはないよ、学生なんかも食べに来てくれるからね」
「そういうところはプライドのようなものでもあるのか」
「でも今の時間は客が少ないけど、夜とか昼は客も多いから割と稼いでるよな」
運動部系の学生なんかは中盛りから大盛りを頼んでくれる事も多い。
また建築現場の人なんかも来るので、並のラーメンは思っているよりも出ない。
他にも素ラーメンも置いているので、簡単に済ませたい人も入ってくれるとか。
「ノーマルなやつはワンコインだけど、それだけ頼む人は思ってるより少ないからね」
「他にも頼んでくれる事が多いというのはそういう事を想定しているという事か」
「あと具が増えると値段も上がるからな、そういうのも値段の割に売れるんだろ」
「確かにネギや玉子、わかめにチャーシューやメンマとかトッピン具も多いな」
「具を増やしてくれる人は割と多いからね、それが思ってるより稼いでる理由だね」
たくさん食べる人もそれなりに入ってくるのでその分稼げるとの事。
やはりたくさん食べる人が稼ぎの筆頭なのだ。
具が多いというのはそれだけ値段もするからこその話である。
「それでも1000円の壁はラーメン屋だと意識しちゃうんだよね」
「1000円の壁?」
「ラーメンって1000円越えるととたんに売れなくなるっていうやつだよな」
「美味しいのならそれぐらい出せるのではないのか?」
「一応具を全部乗せすると1000円越えるけどね、それを頼む人は流石に少ないし」
ラーメン屋のジンクス的なものでもある1000円の壁。
二郎が言うにはラーメンは1000円を越えると突然売れなくなるとのこと。
なのでスペシャルとして具を全部乗せしたものもあるが、それが出るのは稀らしい。
「まあラーメンってのは店に長居するもんでもないからなんだろうけどね」
「他のジャンルの店だとその値段は普通に越えるのではないか?」
「パスタなんかは普通に1000円越えもあるよな、店にいる時間的な話なのか?」
「原材料費なども言っていたが、そういうところも影響しているのか?」
「それはなんとも言えないけどね、ただ場所代って考えるとそんなもんかとは思うよ」
理由などについては謎も多いというのが現状だ。
ただパスタなどの店は食べたらすぐに出ていくという店でもない。
なので場所代という事ならある程度は納得という事のようだ。
「この国だとラーメンはハンバーガーとかと同じ仲間なんだろうね」
「要するにジャンクフードの仲間という風に捉えられているのか」
「でも確かに世間的にはそんな認識に思うな、高級な飯って感じはしないし」
「だからこそ1000円の壁か、食べ物をどう見ているか、だな」
「なんにせよ回転率だからね、ラーメンってのは」
値段については割とその食べ物への認識が分かる。
ラーメンはジャンクフードの仲間として見られているのかもしれないと言う二郎。
回転率などもそれが関係しているのか。
「さて、またタレの仕込み頼むよ」
「ああ、任せろ」
「ラーメンに対する認識ってやつだよなぁ」
ラーメン屋で働いていると感じるその認識。
1000円の壁はラーメン屋にあるジンクスのようなもの。
それでもワンコインを貫く二郎はそれだけの本気なのだろう。
その値段だからこそ客も多く入るという事なのだろうから。




