冬になると
こっちの世界もすっかり秋模様が深まってきた季節。
冬も近づいてくるが、まだ冬にはならない。
そんなこっちの世界の季節について雪樹も少し気になっている様子。
夏があれだけ暑かったという事もあるからなのだろう。
「なあ、こっちの世界の冬は寒いのか」
「ん?冬?まだ気が早いんじゃない」
「いや、冬は寒いのかという事が聞きたいのだが」
それを聞いている相手は愛依。
聞く相手が少し違う気もするが、ちょうどいたから聞いたらしい。
「んー、冬ねぇ、寒い時はめっちゃ寒いけど暖かい時は暖かいよ」
「つまりどういう事だ」
「暖冬とか冷夏っていう暖かい冬とか涼しい夏がたまにあるんだよ」
「なるほど、そういう事か」
「でも基本的には寒いかな、ここは東京だから北よりはマシかも知れないけど」
北国が寒いというのは雪樹の世界でもそうだ。
だが違う事といえば季節への感覚だろう。
雪樹の世界でも当然季節の変動はあるわけで。
「そういえば雪樹の世界だと夏とか冬とかないの」
「あるにはある、流石に一年中雪が降っていたら雪国でも民が飢えるからな」
「一応あるんだね、こっちだと雪国でも夏はめっちゃ暑いよ」
「北国でも暑いのか?」
「うん、コンサートで北海道に行った時とかめっちゃ暑かったし」
そういう話は雪樹の世界ではあまり聞かない話だ。
夏でも北国は涼しいし、冬でも南国は暖かい。
こっちでも比較的そんな感じではあるが、暑い時は暑いのだ。
「でもなんでそんな事聞いてきたの」
「いや、夏があれだけ暑かったというのもあったからな」
「ふーん、ウチは冬は美味しいものがたくさんあるから割と好きだけど」
「そういう問題か?」
「ただ音楽やってる身としては手とか喉のケアが暖かい時より大変だけどね」
そういうところは職業柄なのだろうと感じる。
だが暖冬や冷夏があるように、寒いとは限らない。
ただし寒い時は徹底して寒かったりする。
「まあ東京だと雪が降る方が珍しいからね、寒くなっても雪は降るか微妙かも」
「確かに僕の世界だと南国は冬でも雪はめったに降らないな」
「でもクリスマスとかには降るとムードは出るかもね、ウチには関係ないけど」
「なんにせよ北と南で違うのはこっちでも変わらんのだな」
「北は冬に災害になるけど、南は夏に災害になるから」
北国は冬になると大雪が襲う、その一方で南は夏に台風が多く当たる。
この国が災害列島と言われる所以である。
東と西の方なども災害は比較的多いわけだが。
「この国だと東西南北どこにいても自然災害に襲われるからね」
「そんなに災害が来るのか?」
「特に地震大国だからね、たまに大きいのがドカンと来るよ」
「地震、僕の世界だと珍しい自然災害だな」
「雪樹の世界だと地震は珍しいんだね」
雪樹にとって地震というのは経験の少ない災害だ。
基本的には冬の大雪が雪樹にとっての自然災害である。
高地にあり冬は大雪になるのが雪樹の国なのだとか。
「なんにしても冬は寒い方だと思っておいたほうがいいよ」
「分かった、そうしておく」
「北に比べるとまだ暖かいけどね、でも今年も寒くなると思う」
「今はまだ分からないという事か」
「ただそれでも寒い時は寒いからね」
こっちの冬は比較的寒い方だという愛依。
ただそれでも北海道や東北の冬に比べれば東京はまだ暖かい。
それでも寒さへの準備はしておくべきだろう。
「冬になるとこたつに入ってアイスを食べたくなるんだよね」
「冬なのにアイスを食べるのか?」
「冬は暖かくした部屋で食べるアイスが美味しいんだよ」
「こっちの人間の感覚はよく分からん」
「こたつでアイスのよさがわからないとは」
こたつというものが少し気になる雪樹。
ついでにこたつについて聞いてみる事にした。
その反応はというと。
「こたつは人間を駄目にする悪魔の兵器だよ」
「悪魔の兵器?ただの暖房器具がそんな大層な言われようなのか?」
「そりゃもうね、こたつに取り込まれた人間はみんな駄目になるから」
「悪魔の兵器、暖房器具なのにそんな二つ名がつくとはどういう事なんだ?」
「雪樹も冬になれば分かるよ、こたつは悪魔の兵器だってね」
こたつについてはそれしか分からなかった。
悪魔の兵器すら言われる暖房器具とは。
それは冬になれば分かるらしい。
「なんにせよ少しは分かった、すまない」
「別にいいよ、冬になったら美味しいもの食べようね」
「ああ、そうする」
こっちの世界の冬は静かに近づいてくる。
そして愛依の言っていたこたつは悪魔の兵器という言葉の意味。
さらに美味しいものがたくさんあるとのこと。
冬も何気に楽しみになったようだ。




