秋物の服
こっちの世界にもかなり馴染んできた雪樹。
そんなこっちの世界は冬に向けて少しずつ寒くなる。
当然着るものも厚手になり、寒さを凌げるようになっていく。
卯咲子もそんな季節に合わせての服になっているようで。
「よく撮れているな」
「うん、今年の秋物もいい感じの宣伝になるって褒められたよ」
「服をよく魅せるのも仕事か、卯咲子は大したものだな」
先日秋物の服のモデルの撮影をしてきた様子の卯咲子。
その写真が掲載された雑誌を関係者から受け取ったようだ。
「服の宣伝が仕事というが、実際に売れたりするものなのか」
「私の事務所はショーをやったその場で売るっていうやり方もしてるからね」
「つまりお披露目と同時に売るという事か」
「うん、今はネットもあるからおかげでモデルの評判も同時に上がるしね」
「技術というのも使いようだな」
卯咲子の事務所のやり方としてその場で売るやり方があるという。
ショーを開催した会場でショーが終わり次第併設された店でその服を売る。
またネットも活用しショーの配信と通販も同時に行うそうな。
「やはりモデルが着ていた服というのはそれだけ売れるものなのだな」
「そうだね、女の子にとってはやっぱり可愛いとかそんな風に見せたいんだよ」
「僕は可愛いとかそういうのはよく分からん」
「でもそういうのは男の子もそんな感じだよ、可愛いじゃなくてかっこいいかもだけど」
「要するに自分を見て欲しいとかそんな感じなのか」
卯咲子もモデルでは小柄ながらも美人なので、服は割と映える方ではある。
それもあってか仕事はそこそこ入ってくる。
自分で仕事を取りに行く事も多いが、そこはマネージャーが優秀なのだろう。
「しかし服をきらびやかに見せられるのは平和な世の中だからという感じだな」
「雪樹の世界だとそういうのはないの?」
「戦争で荒廃して疲弊しきっているからな、服もこっちに比べたら全然だ」
「そういう世界でも王族とかはいい服を着てるとかあるの?」
「他国の王の話だが、自分達まで貧しくなると国の士気も下がるとは言っていたな」
雪樹が言うには王族が貧しくなればそれは国民の士気にも関わるとか。
なので食事は贅沢が出来なくとも身なりだけはいいものを身につける。
それは国の国力が維持出来ている事の証明にもなるのだとか。
「他国の王の話ではあるが、皆で貧しくなるというのは国の衰退でしかないとな」
「だから王族だけでもいい服を着てそれは国力の維持の証明って事なんだ」
「ああ、他の忍者の話では食事は貧しくなっていたらしい、王族でもな」
「それはあえて隠して見た目だけでも繕っておくって事なのかな」
「僕にはそこは分からん、だがリーダーがみすぼらしくては士気も上がらんだろうな」
それはつまりリーダーはみすぼらしくなってはいけないという事だろう。
王族というのは国をまとめるリーダーなのだ。
リーダーはその責任を背負っているからこそという事だ。
「責任を負えない奴がリーダーなどやらん、やるとしたら破壊したい者ぐらいだ」
「あー、なんとなくその話は分からなくはない」
「服というのはそういったせめてもの虚勢に近いものがあるのだろうな」
「服は国力を示すもの、そういう考えもあるんだなぁ」
「こっちの世界は綺麗な服が多い、それは豊かで恵まれている証拠だ」
雪樹の世界とこっちの世界では環境がそもそも違う。
だからこそ雪樹はこの世界の豊かさを感じている。
持ち帰ろうとする技術は様々あるのだろうという事だ。
「しかし秋物の服か、冬もそんな遠くないというのによくやるな」
「まあ近年は春と秋はどこ行ったっていう感じの気候になってるから分からなくもない」
「しかし雨も多いな、季節という事なのか」
「秋雨だよね、おかげで普段よりも寒く感じるから嫌なんだよなぁ」
「もう秋でそのまま冬、今年はこちらで越冬になりそうだ」
秋物の服とは言うが、季節的に秋の感じはあまりしない。
それでも秋物の服は出すものなので、それも売れるのである。
商売とはやはり商魂逞しい者が勝つのだろう。
「さて、また次の仕事を探さなきゃ」
「マネージャーとやらもいるのに活動的だな」
「それは仕方ないからね、また片っ端から電話だよ」
卯咲子の逞しさもあるがマネージャーも優秀なのだろう。
そんな秋物の服は割と売れているらしい。
だがその一方で秋は実感が薄い気候でもある。
服を売るというのも大変なのである。




