小さな事務所
こっちの世界も近所なら一人でうろつけるようになった雪樹。
そんな中アパートで一緒に暮らしている人達の事も気になっている様子。
仕事はバンドでアイドルとのこと。
その仕事の現場にたまにお邪魔したりして少しは様子を見ているのだが。
「なあ、お前達の本来の仕事は音楽なんだろう」
「ん?そうだよ、本業はバンドだね」
「その割に音楽以外の事も何かとやっているのが気になってな」
そこはバンドであると同時にアイドルでもあるという事。
それにアルバムメインのリリース形態なので、スケジュールも多少は余裕があるらしい。
「私達はアルバムメインで出してるから季節を決めてみたいな感じだよ」
「つまりある程度の周期はあるのか」
「そういう事、だからリリースしないシーズンは他の仕事にも専念出来るの」
「事務所というのに所属しているのだったか」
「うん、まあ小さい事務所だけどね」
夏花が言うには所属事務所は自分達しか所属していないという。
社長も大々的にやるつもりもなく、細々とやっていくつもりらしい。
とはいえ仕事は結構入ってくるので、売り込みはしているのだろう。
「にしても二郎のおじ様と社長ってなんで仲良しなのやら」
「そんな事も言っていたな、二郎は不思議な人脈でもあったりするのか?」
「社長も割と謎が多い人だからねぇ、昔の事とか教えてくれないし」
「実は昔は凄い人だったとかあったりするのだろうか」
「悪い人じゃないと思ってるけど、ミステリアスなおじ様って感じだよ、社長」
夏花が言うには事務所の社長は割と謎が多いとか。
悪い人ではないとの事だが、過去の事などは謎が多いとのこと。
二郎ともいつどこで知り合ったのかは教えてくれないようだ。
「そういえば社長が新しいアイドル候補生を募集するとか言ってたっけ」
「その新しいアイドルとやらもここに住むのか?」
「部屋は空いてるって二郎のおじ様は言ってたから、そうなるんじゃない」
「ついに新しい職場の仲間が増えるのか」
「来る事が確定はしてないけどね」
事務所の社長が新しいアイドルの候補を募集しようかと言っていたとのこと。
つまりその募集に人が集まればここにも人が増えるかもしれないらしい。
ちなみにどんな人を募集しているかというと。
「その新しいアイドルというのはどんなのを募集しているんだ?」
「なんか男の娘を募集するって言ってた、男の娘アイドルを計画してるとか」
「男の子?つまり男性アイドルか」
「ノンノン、男に娘と書いて男の娘らしいよ、要するに女装男子だね」
「この世界の趣向がたまに分からなくなるのだが、僕がおかしいのか?」
社長曰く男の娘アイドルになりたい者来たれ!らしい。
雪樹もこっちの世界の趣向には割と困惑したりもする。
変態はどこにでもいるという事なのだろうか。
「しかし男の娘、それは要するに女に見えなくもない男という事なのか」
「だと思う、世の中には中性的な顔立ちの人って男女どっちもいるから」
「むぅ、どうにもこの世界の人間の趣向が理解出来ん」
「でも雪樹も割と中性的な感じに見えるよ?一人称も僕だし」
「そうか?これでも僕は立派な女なのだが」
夏花が言うには雪樹も充分中性的に見えるらしい。
娯楽としてはその逆で女が男を演じるものもある。
そういった男を演じる、女を演じるのをその世界での華にしていたりもすると。
「私が好きなやつだと男を演じられる人はスターっていうのもあるね」
「つまり男役はその劇の花形という事なのか?」
「そうなるね、凄く厳しい世界でその中から男役に選ばれるのは栄誉なんだよ」
「そういう世界もあるのだな、この世界の娯楽というのは奥が深い」
「だからそういうのの発展型なのかなって思うけどね、社長の考えも」
社長が考える男の娘アイドル。
それは性別などを越えた人を魅せるという職業への挑戦なのか。
なんにせよ集まるかどうかは社長も神頼みという事らしい。
「小さな事務所でも何かと考えるのだな」
「大きいのは望んでないって言ってたしね」
「この世界の娯楽というのはどこまでも深いものを感じるな」
雪樹が触れているこっちの世界の娯楽。
それはほんの一部だが、その世界は広い。
理解しがたいものも当然あるのがその世界だ。
夏花達の事務所も考えてはいるのだろう。




