夏の暑さ
こっちの世界も今は夏なので言うまでもなく暑い日々が続く。
各部屋や店でもエアコンが稼働しているのでなんとか凌げている。
とはいえ雪樹にはこの暑さははじめての経験のようで、ぐったりしている。
やはり日本の夏は異世界人でもきついという事なのか。
「暑いぞ、なんだこの暑さは」
「異世界人でもこの暑さはきついんだね、アイス食べる?」
「ああ、いただくとする」
雪樹は卯咲子の部屋でアイスをかじっていた。
今日は碧流は大学、アイドル組は全員仕事という事もある。
「卯咲子は今日は仕事はないのか」
「うん、自分で仕事取ってこないといけないからね」
「意外と大変なのだな」
「夏は暑いからねぇ、日焼けしたモデルっていうのもいいかなぁ」
「しかしこっちの夏はこんなに暑いのか、流石にこれはだれるぞ」
雪樹でもこちらの世界の夏は暑いのだという。
そもそも雪樹の世界の夏はどんな感じなのか。
卯咲子はそれを少し聞いてみた。
「雪樹の世界だと夏はもっと涼しいの?」
「僕の国は高地にあるからな、そこまで暑くもない」
「そうなんだ、確かに山の上の方って涼しいイメージはあるかも」
「こっちの夏は暑くて敵わん、なんなんだこの暑さは」
「近年は20年前ぐらいと比べると気温も上がってるしね、あと湿度」
卯咲子の言うように日本の夏は湿度の高さが凄い事もある。
それにより暑さ以上に不快感に襲われるのだ。
だからこそ湿度と上手く付き合っていくしかないという事もある。
「こっちの夏は暑いんだが、暑さ以上に嫌な感じだ、これが湿度か」
「高温多湿の国だからねぇ、アイスもう一本いる?」
「ああ、いただく」
「にしても雪樹って意外と甘党だったりする?」
「甘いものは嫌いではないが、どちらかと言うと塩っ気のあるものが好きだ」
雪樹曰く好きなものは塩っ気のあるものらしい。
ちなみに忍者なので好き嫌いはないという。
確かに普段を見ていても特に気にする事もなく、なんでも食べている。
「しかしエアコンというのは便利だな、室内はとても涼しい」
「文明の利器だよねぇ、外に出たら溶けそう」
「言ったものだな、確かに外には出たくない」
「忍者でもこの暑さはきついって事なのかな」
「普段は通気性のいい服を着ているが、それでもこの暑さはきつい」
雪樹が言うには普段は通気性のいい服を着ているらしい。
忍者としての活動において汗で服が濡れて体が重くなるのは死活問題。
なので極力汗をかかないように工夫はしていたのだとか。
「そういえば通気性のいい服ってどんなのがあるの?」
「そうだな、メッシュ生地なんかは定番だが」
「メッシュ生地かぁ、そういうのもいいかも」
「夏花に頼んでそういう服を用意してもらったのでな」
「僕の服は元々こっちの世界にはない素材で作られていたしな」
雪樹が通気性のいい服を好むのは忍者という職業の職業病なのだろう。
汗を極力かかないようにするためにそういったところから整える。
それも仕事において大切なのだと思っていた。
「そういえば湿度というのはこの蒸し暑さの事か、蒸し風呂のようだ」
「湿度計…今湿度80%あるね」
「それは流石におかしいと思うが」
「それが日本の夏なんだよね、夜でもこれが続くから」
「しんどいわけだな、納得した」
卯咲子も雪樹も流石にぐったりである。
この日本の夏の前には忍者ですらも参ってしまう。
異世界人とはいえ、忍者でもこの暑さはきついという事が分かる。
「夜になれば気温は下がるけど、湿度は下がらないんだよねぇ」
「寝るのがしんどいわけだな、本当に」
「日焼けモデル、うーん」
「さっきの事をまだ考えているのか」
「それもいいかもねって思ってるだけだよ」
卯咲子は日焼けモデルというのも真面目に考えているようだ。
昔のグラビアなんかは小麦色の肌など言われていたりもした。
そういうのもいいかもしれないと卯咲子は考えているようだ。
「はぁ、近くにアイスが置いておけるのはいいね」
「卯咲子は意外と怠惰なのだな」
「冷凍庫まで取りに行くのも面倒だしね」
「それでクーラーボックスか」
「日本の夏を乗り切るにはこれしかないってね」
そんな夏に溶けそうな卯咲子。
雪樹もこの暑さにはぐったりしている。
日本の夏の過酷さを雪樹は感じていた。
「仕事探しに行くのは明日でいいや、今日は体力回復」
「この暑さでは無理もないな」
「夏なんて嫌いだぁ」
そんな夏の暑さを冷房の効いた部屋で過ごす雪樹と卯咲子。
怠惰の極みのような今日の二人は二人だけの秘密という事に。
アイスをかじりながらぐったりとしていたのは雪樹もはじめての経験。
日本の夏は異世界人の雪樹をも弱らせていた。




