昔はあったもの
こっちの世界のものに示す興味も多岐に渡る雪樹。
今回はどうやら容器に興味を示している様子。
夏花がトレーニングのあとによく飲んでいるもの。
そういったものにも不思議を覚えるという。
「ほら、飲み物だ」
「どうもね、ふぅ」
「それにしてもジムというのは凄いな、運動のためだけの施設とは」
夏花に誘われてジムの見学という形で見ていた雪樹。
体を動かしたあとの水分補給もきちんとするのは言うまでもない。
「そのペットボトルというのは凄いな、柔らかいのに頑丈だ」
「そういう技術だからね、昔はほとんど缶と瓶だったって聞くから」
「缶と瓶?鉄のあれとガラスのあれか?」
「そう、コーラも基本的には瓶だったし、ジュースなんかはほとんど缶よ」
「それが今ではペットボトルという事か、技術は進歩するものだな」
確かに昔はコーラと言えば瓶のコーラが一般的だった。
ジュース類も基本的には缶ジュースばかりである。
ペットボトルは実は意外と近年に生み出されたものでもある。
「だが生産コストだと瓶は高く付くのではないか?」
「そこはきちんと洗浄したりとかはあったわよ、お店に持っていったりね」
「確かにこっちの世界は技術も優れているから洗浄ぐらいは出来そうだが」
「学校給食の牛乳も基本的にはビン牛乳だったものね、時代だと思うわよ」
「技術の進歩というやつか、大したものだな」
夏花の年齢については触れない方がいいのかとも思った。
とはいえ今は瓶の飲み物はかなり減ったという。
雪樹がこの前二郎のラーメン屋で見た瓶ビールはそれだけ支持されているという事か。
「だが技術が進歩するならそれはそれでいいのではないか」
「まあ瓶は割れたりすると危ないのもあるものね、それはあるわよ」
「とはいえ古きものが消えていくのも不思議な感じはするな」
「時代と共に淘汰されていくものはあるのよ、そうやって進歩してきたんだもの」
「時代と共に、僕の世界でも昔使っていたが今は使っていないものなんかもあったな」
結局はいつかは新しいものに取って代わられていく。
そうして世界は進歩し、発展してきたのだろう。
雪樹もそれは分かっているので、自然の摂理だと思っている。
「そういえば瓶の牛乳もあったのか?」
「あったわよ、毎朝瓶の牛乳を届けてくれる仕事とかもあったから」
「ふむ、そういうのも今では珍しいのか?」
「珍しいかどうかは分からないけど、需要は減ったんじゃないかしら」
「需要、求められるから残っているものは世の中には多いという事か」
世の中にあるものは求められるからこそ長く残るものもある。
それと同時に求められなくなった事でひっそりと消えていくものも多い。
結局は必要とされるから生き残り、必要とされなくなったから消えていくのだと感じた。
「だが求められるからというのはなんとなく分かる気はするな」
「このジムだって需要があるから生まれて、数も増えてるんだものね」
「ペットボトルも瓶に代わる新たな技術として生まれた、という感じか」
「結局は利便性って大切なのよ、処分が面倒なものは扱いに困るでしょ」
「それは分かる、毒魔法のスクロールなどは下手に捨てられないと言っていたな」
雪樹もこの世界とは違うとはいえ、その言葉には同意する。
利便性というものは世の中には必要なのだと。
手軽さや扱いやすさというものはそれだけで生活を変えてくれる。
「それはそうと夏花はそんなに鍛えて、戦士にでもなるつもりなのか」
「戦士って、バンドってこれでも体力凄く使うのよ」
「なるほど、確かに僕の世界でも演奏家は屈強な男が多かったな」
「だから仕事のために鍛えてるの、半分は自分の趣味だけどね」
「意外と楽しんでいるのだな」
バンドは体力を使うから鍛える。
それは音楽という世界では当然の話。
バンドに限らず、アイドルでもその運動量は下手なスポーツも真っ青なのだと。
「そういえばアイドルというのも見たが、歌って踊るとは超人だな、あれは」
「アイドルでもバンドでもそうだけど、どんだけトレーニングしてると思ってるのよ」
「あの体力と運動能力は僕の世界なら軍隊の一等兵になれるぞ」
「まあそれだけ鍛えてやっとまともに動けるって話よね」
「それだけ鍛えている、軍隊顔負けだな」
実際アイドルもバンドもそうだが、普段から鍛えているものだ。
スタミナはもちろん、アイドルになってくると運動能力も求められる。
某男性アイドルはみんなバク転が出来るものとはよく言われたものだ。
「さて、再開するわよ」
「無理はするなよ」
「うっし、始めますか」
そんなこの世界における技術の進歩というもの。
求められるから生き残り求められなくなったから消えていく。
それは異世界でも変わらないという事。
そうして世界は変わっていくのだろう。




