外食という文化
こっちの世界で様々なものを見つつ、ラーメン屋で働く雪樹。
二郎との約束もあり水餃子のタレを仕込む事を条件に居着いている。
そんなラーメン屋でまかないを食べている中で、その文化についても興味を示す。
外食という文化自体は雪樹の世界にもあるようだが。
「終わったぞ」
「どうもね、そんじゃまかない作ってあげるから少し待ってなさい」
「ああ、すまない」
このラーメン屋の名物は二郎が手作りしている水餃子だ。
その一方でラーメンもきちんと人気があるわけで。
「この世界には外食の店がたくさんあるのだな」
「雪樹ちゃんからしたら珍しいかね」
「外食というものは僕の世界にもある、ただここまで豊富ではないな」
「ふーん、雪樹の世界って荒廃してるって事だろ?」
「ああ、戦争が長く続いたせいでな」
雪樹の世界は戦争が長く続いた事により食料の事情も難しいものがある。
それにより外食という文化はあるものの、それも高級品になっている。
だが国の民達による炊き出しなども行われているのだとか。
「はい、わかめラーメン」
「すまない」
「雪樹ってわかめとかネギが好きだよな」
「ああ、僕の故郷だとよく食べていたからな」
「荒廃してて貧しさもあるんだろうね、肉は贅沢品、そんな感じかな」
雪樹曰く肉は食べられるが、お世辞にも高い肉は無理だという。
家畜なども飼育は出来ているので、供給自体は困らない。
国内だけならまかなえているが、輸入品などに困っているのが実情だそうだ。
「そういやよ、なんでこの店素ラーメンなんて置いてんだ?それも格安で」
「素ラーメンというのは具が一切乗っていない、麺とスープだけのものか」
「それはおっさんなりの優しさよ、素ラーメンでもいいから食べて欲しいっていうね」
「それで普通のラーメンよりも安い値段で素ラーメンも置いているのか」
「でも素ラーメンが300円だろ?普通のラーメンが500円だから、それでも安いよな」
この店の値段設定は二郎曰く学生でも気軽に入って欲しいからだとか。
そのため普通のラーメンはワンコイン、素ラーメンはそれでお釣りが来る設定だ。
近年の原材料費の高騰などもありながら、値上げせずに貫き通している。
「そういや中華料理屋とか台湾料理屋で安いのにやたらボリュームある店とかあるよな」
「値段の割に量がある店という事か?」
「あれね、あれは独自の仕入先とか持ってたり身内経営だったりするから出来るのよ」
「つまり人件費が安いから出来る量の料理という事でいいのか?」
「二郎のおっさんもそういうの持ってたりすんのか?」
確かに家系ラーメンでワンコインというのはなかなかに安いはずである。
水餃子とビールを頼んでも1000円と少しになる程度だ。
安さの理由というのはあるものなのか。
「うちはそういうのはないよ、でも美味しいものを食べて欲しいから限界の安さなの」
「これが値段の下限としては精一杯という事か、その考えは素晴らしいと思うが」
「でも水餃子も一皿で10個ぐらい乗ってて300円って安すぎだろ」
「アルコールは500円ぐらいか、これは適正価格なのか?」
「うちはビールは瓶ビールしか置いてないのよ、維持費考えたらこっちの方が安いから」
二郎曰くビールはサーバーの維持費を考えるなら瓶の方が安く上がるとか。
瓶ビールは一般的な中ジョッキより量が多く、値段の差も50円程度しかない。
量と値段のコスパは生より瓶の方が圧倒的にいいのだとか。
「ちなみに中ジョッキは大体350で450円ぐらい、瓶は500で500円ぐらいね」
「圧倒的に瓶ビールの方が得しているな」
「つまり生ビールってのは雰囲気とかそういうもんって事なのか?」
「確かに祭りの屋台で食べる食べ物は高いはずなのに安く感じると卯咲子は言っていたな」
「うちの場合は維持費の事も含めてね、ビールの定義上瓶ビールも生ビールだから」
二郎が言うには熱処理による殺菌をされていないものを生ビールと定義するらしい。
なので定義上では瓶ビールも生ビールと名乗って問題ないのだ。
樹希はお酒はあまり飲まないので、そういうのはよく分かっていなかったようだ。
「美味かったぞ、ごちそうさまだ」
「おう、また次もタレの仕込み頼むよ」
「この店も経営努力はしてるって事なんだな」
意外な経営努力を垣間見た二郎の店。
店名はアイ家というギャグのような名前だが、味は本物だ。
素ラーメンも置いていたり、水餃子は値段の割に多かったりサービスもしている。
二郎なりの経営理念がそこにはあるのだろう。




