インスタントという技術
雪樹もこちらの世界にはすっかり慣れた様子。
そんな中碧流に相変わらずたまにやきそば弁当を分けてもらっている。
すっかり気に入ったのか、その技術にも驚かされている様子。
インスタントというものは世紀の発明とも言えるだろう。
「うむ、満足だ」
「すっかり気に入ってるね」
「まあな、それにしてもお湯を注ぐだけで出来るとは凄いな、これは」
雪樹の世界にも保存食のようなものは当然ある。
とはいえインスタントラーメンのようなものはないわけで。
「あ、誰か来たね、少し待ってて」
「この感じ、卯咲子か」
「お邪魔しまーす」
「やはり卯咲子か」
「相変わらず俺にべったりなんだからなぁ」
その様子を見た卯咲子も雪樹がこっちに馴染んでいるのを感じていた。
元の世界に戻るのはきちんとその技術を覚えてからというわけだが。
そんな雪樹が少し質問をしてくる。
「なあ、このインスタントというのはどうやって作っているんだ?」
「これなんかだと油で揚げた麺を瞬間的に乾燥させてるんだっけ?」
「乾燥させている、つまり一瞬で乾かす技術があるのか」
「フリーズドライなんかもそうだよね、インスタント食品は大体それじゃない?」
「ふむ、油で揚げたものを瞬時に乾かしている、なるほど」
インスタントラーメンに限らずそういうものは昔からある。
それはやはり考えた人は偉大という事なのだろう。
保存食としても有用であり、手軽に食べられるのが大きいのだ。
「インスタントラーメンって世界で億単位で食べられてるもんね」
「そんなに売れているのか、凄いのだな」
「貧しい人でもある程度手軽に入手出来て調理も簡単なのが大きいんだよ」
「なるほど、これはもしかしたら貧困を救う手がかりになるかもしれん」
「実際の話、そういう目的で世界に出荷されてたりするもんね」
雪樹の世界にも当然貧困や飢餓に苦しむ人達は多い。
だからこそお湯さえあれば食べられるインスタント食品はそれだけ凄く映る。
近年は手間の増えたものも多いが、それでもシンプルなものが売れ続けているのだ。
「これはカップ麺だけど、袋の即席麺もあるよね」
「袋のタイプ?」
「そう、お鍋で茹でて作るやつね」
「そっちの方が本来のラーメンっぽいのか?」
「カップ麺は即席麺をさらに手軽にしたものだからね、元祖だと袋麺だと思うよ」
最初に発明した人については諸説あるが、認知に貢献したのは間違いなくといったところか。
それは鍋で茹でるだけでスープも出来るというもの。
即席麺の元祖とも言うべきものか。
「即席麺の元祖だとこれかな、カップ麺の元祖はこっちだね」
「ふむ、しかしなぜ鶏なのだ?」
「牛と豚は宗教的な問題で食べられない人もいるんだよ、鶏ならそういうのはないから」
「それで鶏のスープでありラーメンか、宗教的な問題にも関係していたとは」
「そっちだとこれは食べてはいけないみたいなのはないの?」
雪樹の世界にも当然そういったものはある。
宗教的な問題で食べられないもの。
それに関しては世界などは関係ないのだろう。
「確か羊を食べてはいけないという宗教がある国はあったな」
「なるほど、そういうのは世界とかは関係ないのか」
「鳥に関しては空を崇める宗教なんかでは食べる事は禁止されていたな」
「ふーん、それを聞くと世界って広いねぇ」
「結局は信仰対象によるのだろうな、大地を崇めていると獣は食さないと聞いた」
雪樹の世界の宗教観といった感じか。
信仰対象によって食べてはいけないものがある。
別にそれによって民が飢えるといった事はそんなになかったそうだ。
「特定のものが食べられないとしても栄養を摂るのなら別のものでも出来るからな」
「確かに菜食主義者なんかだとタンパク質は大豆からだっけ」
「別に特定の何かが食べられなくても人は意外と死にはしないものだぞ」
「確かに牛を食べられない人達も健康に問題がありそうな人は意外と見ないよね」
「なんにせよ、このインスタントというのはとても興味深いな」
特定の何かが食べられなくても人は意外と死なないもの。
それは荒廃した世界から来た雪樹でも分かっている事。
宗教的な問題としても人は意外と死なないものである。
「それより碧流、新しい服の試着させてよ」
「ああ、そうだった、少し待ってて」
「なんだかんだで仲がいいな、お前達は」
インスタントという技術にも興味を示す雪樹。
それは貧しい民を救う光明なのか。
こちらの世界でもインスタントラーメンはその役割を果たしている。
安価でお手軽というのは偉大な発明なのだろう。




